私、大倉野あやかが社長秘書をつとめることになった農業支援会社「株式会社セレン」が2008年10月1日に船出した。4日後には、本社所在地である宮崎県都農(つの)町で設立発起会。これで今年3回目の宮崎訪問だ。
真っ黒な顔のニコニコおじさん
宮崎で開かれた「セレン」の設立発起会。右手前で笑っているのが社長の三輪晋だ。左端は河野正和・都農町長。
もともと農業とはまったく無縁の私が、「食を通じて人を元気に」を掲げる農業支援ベンチャーの設立に携わり、さらに社長秘書になるなんて、半年前にはまったく想像さえしていないことだった。
社長の三輪晋(みわ・すすむ)と出逢ったのは、まだ私が酒造会社でマーケティング担当をしていたとき。たまたま出張もアポイントも入ってない平穏な午後、グループ会社の部長から「今から1時間くらい空いてない?」と会議室に連れて行かれた。
そこでは、日焼けした真っ黒な顔にニコニコと満面の笑みをたたえた三輪と、私と同じように暇だと決め付けられて会議室に突然引っ張りこまれた同僚10名ほどが、狭い会議室に肩を並べていた。
まったく事前情報もなく、このおじさん(三輪社長ゴメンナサイ!)がいったい誰なのかも知らされないまま話が始まった。
おじさんの声はよく通り、大きくて、とても元気と情熱に満ちあふれていた。話を聴いているだけで元気が伝染してくるみたいに何かパワーをもらえた気がした。
1時間後、私はこのおじさんの元気なパワーと情熱と不思議な魅力に完全にやられてしまった。何がすごかったの? 自分でもよくわからない。でも直感ですっごい人と出逢えた気がした。
「元気」つながりで生まれた会社「セレン」
三輪は「元気な野菜」を作るために試行錯誤を重ねてきた
それから半年後、私は酒造会社を退職し、経営コンサルタント会社「株式会社ソフィア」へ転職した。
ソフィアのコーポレートカラーはオレンジ。オレンジは元気な色。そして、ソフィアの合言葉は、「人と会社を元気にします」。「元気」という言葉を聞くと私はいつもあのおじさん、三輪晋を思い出していた。
三輪はあふれ出る「元気」をもった人だ。色でいえば、オレンジの人。それだけではない。こんなことを言っていた。
「『元気な野菜』を食すると人も元気になる。『元気な野菜』は『元気な農家』がつくる。『元気な農家』には『元気な仲間』がいる」
野菜を元気にすることで人を元気にする、というのが三輪の仕事だった。ソフィアは「人と会社を元気にする」会社。目指すところは近い。ならば一緒にやろう。ということで、三輪とソフィアが中心になって「セレン」という新しい会社が生まれた。
口癖は「なんちゃない!」
三輪晋は大阪生まれ、宮崎育ちの47歳。宮崎にある三輪肥料店の代表でもある。
口癖は「なんちゃない(どうってことないよ)!」。声が大きくて、年中真っ黒に日焼けしていて、いっつも笑顔。でも、怒らせると本気で怖い。
本来は畑で使う肥料を売るのが仕事だが、20年前から地元宮崎の農家を集めて、「儲かる農家」になるための様々なことを研究してきた。
そしてある成果を見つけた。「土ごと発酵」という農地改良の方法だ。科学的な裏づけをベースに、いまも発展し続けている方法。簡単にいえば、現代人が忘れてしまった太古から続く農業の知恵、森の中で自然に行なわれている土作りを畑で行なう方法だ。
三輪たちはお互いに失敗と成功を共有して経験を積み重ね、元気で美味しい「土ごと発酵野菜」を作っていった。いつしか三輪は本業の肥料屋さんよりも、農業コンサルタントとして「土ごと発酵」を指導することが多くなっていた。
「土ごと発酵」を日本全体に広めたい
「肥料(=肥え)が売れないから声を売ってたんだよ」
そう三輪は笑うが、彼の薦める「土ごと発酵」で農作物を作ると、たしかに肥料は減り、農薬はほとんど使わなくなる。だから低コストで高収量、高品質の野菜ができる。農家にとっては一石三鳥となり、「儲かる農業」が実現できる。
三輪が仲間とともに20年かけて築き上げてきた「土ごと発酵」。そのノウハウを宮崎だけにとどまらず、日本、やがては世界に広めたい。そんな想いをもった人間が集まってできたのが、株式会社セレンだ。
いま私たちは、本気で日本の農業にイノベーションを起こしたいと思っている。まだまだ始まったばかり。忙しいし、分からないことだらけ、不安だらけだけど、こんなにも毎日仕事が楽しいって思えるのは何年ぶりだろうか。
セレン社長秘書 大倉野あやか
■畑にかよう社長秘書の日記
おいしい野菜のパワーで日本人を元気にしよう! そんなミッションをかかげるベンチャー企業が2008年10月、誕生した。人事コンサル会社のプランナーから一転して農業支援事業にたずさわることになった社長秘書が、新会社の奮闘ぶりを描く。