過保護に育てられ自立心に乏しく、なぜか自信過剰な若手社員を、砂糖の甘さに例えた「シュガー社員」。前回のコラムでは、シュガー社員を5つの型に分けて説明しました。今回は、マニュアルでしか動かない「ワンルームキャパシティ型」シュガー社員の例を紹介します(登場人物はすべて仮名です)。
「マニュアルに書いてない」とふくれっ面
大手商社に入社5年目の小百合さんは、若手社員の教育係。そこに入社2年目の裕子さんが配属されました。一見おっとりマイペースで職場の癒しの存在のような裕子さんに、小百合さんはルーティンワークの「マニュアル」を作って渡しました。
ある日小百合さんは、裕子さんにお客様へのお茶出しをお願いしました。お茶を出す手順はマニュアル通りで完璧。さすがと思ったのもつかの間、ふと見ると茶碗は茶渋だらけで、お茶も出がらしではありませんか。おまけになみなみ注がれているので、飲もうとしたお客様は「アチッ!」と言ってお茶をこぼしてしまいました。
小百合さんが、裕子さんにそのことを指摘すると「だってそれ、最初に言われていませんよ。マニュアルにも書いてないし」とふくれっ面で、反省の色がありません。「そのくらい言われなくてもわかるでしょう」「言われたら素直に聞けばいいのに」と言い返したくなりますが、それが通用しないのがシュガー社員なのです。
「だって先輩もこの前、早退したじゃないですか」
別の日、体調不良を押して出勤した小百合さんは、仕事中に熱が上がって足元がフラフラになってしまいました。見かねた上司が「今日はムリをしないで帰りなさい」と言うのもあって、裕子さんに「病院に寄るから早退するね」と告げて会社を後にしました。
その数日後、裕子さんから早退願いが提出されました。理由は「ネイルサロンに行くため」。しかしその日は、月の中で最も忙しい日。部員全員が残業覚悟ですから認めるわけにはいきません。「分かってるでしょう。また別の日にしてくれない?」と言うと、裕子さんは「だって先輩もこの前、早退したじゃないですかぁ。先輩が良くて私がダメっておかしくないですか?」という返事が。
このように、臨機応変な判断ができず、注意をすると何ともビミョウな判断基準で反論するタイプは、キャパシティ(容量)の小さい「ワンルームキャパシティ型」の可能性が高いでしょう。
過剰な期待をしないのが一番
彼女は、なぜこのような反応をするのでしょうか。実はこのタイプのシュガー社員は「私は十分ちゃんとやっているはず」「これだけできれば自分も満足」「これ以上のことを要求するまわりが悪い」と勝手な線引きをしているのです。会社は「こんなところで満足してほしくない」「もっと成長してほしい」と願っているわけですから、この温度差がある限り摩擦がなくなることはありません。
このタイプへの対処法ですが、残念ながら無理な期待をせず、身の丈にあった仕事を与えるしかありません。本人自身に「このままでは一人前じゃない」という危機感がなければ、成長などあり得ないのです。キャパの狭さは、自分でしか広げることができません。
ここは摩擦を回避するために、いっそ戦力にすることを諦めて、仕事のミスを減らすことを考えてみましょう。彼らの傍に付いてミスのパターンを熟知し、仕事を渡したら先回りして「ここは気をつけてね」「ここまでできたら必ず相談してね」と事前に指摘するのです。元々、マニュアルがあれば素直に従うタイプで、勝手に暴走することもなく、言われたことはきちんとやります。彼らにそれ以上のことを望むのは酷かもしれません。
田北百樹子