こんにちは、社会保険労務士の田北百樹子(たきたゆきこ)です。最近の会社では、過保護に育てられて自立心に乏しいくせに、なぜか自信過剰な若手社員が増えています。私は、そんな社員を砂糖の甘さに例えた「シュガー社員」と名付けました。この連載コラムでは、「シュガー社員」のタイプ別の特徴と対処法を、実際にあった事例を交えて解説します。
砂糖のように甘くて、会社を溶かしてしまう「シュガー社員」
私は札幌市で社会保険労務士事務所を開き、企業の人事労務のサポートなどをしています。ある日、顧問先の社長から、こんな相談を受けました。
「最近の若いもんには参りますよ。見習いのうちから生意気に“労働条件に納得がいかない”って。しかも、親まで顔を突っ込んでくるんですよ」
どんなクレームですかと聞くと
「母親がね、“うちの子に車で営業させているらしいけど、事故を起こすからやめて欲しい”って」
わが耳を疑いましたが、これは実話です。こんな過保護な甘ちゃん社員から受ける印象を、砂糖の甘さになぞらえたのが“シュガー社員”という造語です。
シュガー社員は「5つの型」に分けられる
昨年出版した『シュガー社員が会社を溶かす』では、シュガー社員を5つの型でカテゴライズしました。あなたの近くに、こんな困った社員はいませんか?
1. マニュアルでしか動かない「ワンルームキャパシティ型」
言われたことしかできないタイプ。臨機応変に対応する能力がなく、一度指摘されたことを応用して判断しようという気もありません。ちっちゃいルーティンワークはとりあえずこなすけど、マニュアル外の事や想定外の出来事には、決まって「最初に言われていません!」とパニックを起こします。
2. 仕事と私生活の区別がつかない「私生活延長型」
恋人とケンカしただけで遅刻、欠勤するなどプライベートの影響が仕事にモロに出るタイプ。どんなに仕事がたまっていても残業や休日出勤をする責任感はないし、そんなことを言い出すほうがおかしいと思っています。今の仕事は「自分が本当にやりたいこと」をするまでのつなぎと考えており、雇用するには一番リスキーな存在です。
3. 仕事ができないのに勘違いする「俺リスペクト型」
自分が大好きで他人に興味が持てず、コツコツした努力が大嫌いなタイプ。「私は特別な存在」「僕は本当はすごい人間」と思い込み、その割には仕事の完成度が極端に低いのが特徴です。単純な仕事はバイトかハケンにやらせればいいと上司に楯突き、「自分が成果を上げられないのは、まわりの理解と支援がないせい」と本気で考えています。
4. 粘りがなくてすぐ逃げる「プリズンブレイク型」
真面目に頑張っているように見えて、実践力と体力が全然ない「脱走」タイプ。粘り強さに欠けて、目の前に困難な壁が立ちはだかると、乗り越えずに楽な方へと逃げていきます。医師の診断をきちんと受けずに「実は私、プチうつなんです」などと言い訳して早退してしまうのも、このタイプです。
5. 過保護な親がベッタリの「ヘリ親依存型」
わが子を特別な存在と思い込む親が、子どもにへばりついているタイプ。ヘリコプターのように子どもの上空で待機し、問題が起きると急降下して会社にクレームを付けます。「自分たちは人生の勝ち組で、子どもが出世できないのは会社が悪い」というのが、ヘリ親の心の柱になっています。
シュガー社員と無用な摩擦を避けるための「対策」は?
このような問題行動の背景には「豊かな社会に育った過保護な親」「個性重視をうたったゆとり教育」「パソコンやケータイなどITの発達」「終身雇用制の崩壊と雇用の流動化」などの要素が、いろいろ絡み合っていると考えています。
ここまで書くと、爆発寸前のシュガー社員からは「会社の対応だって悪いじゃないか。ふざけるな!」という声も上がるでしょう。確かに、権利意識の強い若者との摩擦をなくし、彼らを戦力とするためには、会社も変わらなければなりませんし、人の使い方にも工夫が必要です。
ただ、どうしても頭を切り替えられない社長さんには、採用時の見分け方や、うっかり採用してしまったときの対処方法もお教えしなくてはなりません。現場の課長さんは、普通の若者が豹変する「シュガー社員スイッチ」を押さないコツを知っておくのも大事ですね。
ということで、労使双方に厳しいことも書きますが、このコラムを読んで、若手社員が自分の言動を省み、会社の経営者や管理職が正しい労務管理に目覚めていただければ幸せです。そして、皆さんの会社が無用な摩擦のない、楽しく仕事ができる職場になることを切に願っています。
田北百樹子
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