最先端技術を取り入れ、日本のアニソン・J-POP界をけん引する 音楽プロデューサー 佐藤純之介

聴取環境にこだわらず、楽器の演奏をより正確に届ける

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   ――ただ、今、最もポピュラーな聴取環境は......。

   90%以上の人がサブスクリプションで聴いていますよね。

   ――さらにYouTubeで音楽を楽しむ人もいる。となると、佐藤さんは1曲作るにしても、動画共有サイト用、サブスク用、CD用、ハイレゾ用、さらにはテレビ放送用と、配信先に寄り添ったいろんな音質の音源を準備しなければならなくなりますよね?

   とはいえ、テレビ放送や音楽配信サイト、動画共有サイトでは、すべてのコンテンツの音量・音圧を均質化するラウドネス規制が採用されているので「配信・放送用だから」と音質にこだわり過ぎても、意図がうまく伝わらないことが多いんです。であれば、音楽自体のクオリティーを上げたほうがいい。楽器の演奏をより正確にするみたいなことに力を注いだほうが作り手やプレーヤーの想いが届くんじゃないか、とも思っています。

   ――あと佐藤さんはソニーの立体音響システム・360 Reality Audio対応音源の制作にも積極的です。特定のアプリやヘッドホンを使うことでステレオ再生環境ながらリスナーの左右はもちろん、上下や前後と360度あらゆる場所から音を聴かせられる、あのシステムの印象は?

   ライブDVD / Blu-ray用の5.1chサラウンド音源を作る仕事もやるんですけど、正直な話「これ、誰が聴けるんだろう?」と思うこともあるんです。5.1chの再生環境がある家庭って本当に少ないので。でも映画館でみなさんも体験なさっているとおり、5.1chの没入感ってすごいじゃないですか。360 Reality Audioなら普通のスマホやヘッドホンで5.1ch以上の立体感や没入感を得られる。それはやっぱり夢のような話だと思います。

   ――選択肢が増える=やらなきゃいけないことが増えることでもあると思うんですけど......。

    ぼく自身、スタジオでドラムの音を上下左右前後にグルグル回る定位にして遊んだりもしてますけど、それはあくまでデモンストレーション。ドラムがグルグル回り続ける曲なんてずっと聴いていられないですし。本来的にはある種メタバース的......現実の風景を再現するための技術なんだろうな、と捉えています。ライブ会場の音場や、前からは風の音が聞こえて、左右の斜めうしろからはエンジン音が聞こえる飛行機のコックピットの様子なんかを擬似的に体験するために使うとか。あとは、あくまで演出手段のひとつと割り切れば、"なにがなんでも音を回さなきゃいけない病"からは逃げられるんじゃないですか。

   ――演出手段のひとつ?

   ハイレゾ音源ってCD以上に音の定位がはっきりわかるので、声優ユニットの楽曲なんかを制作するとき「○○さんの声は右のこのあたりで、××さんは左のここ」という感じで声の配置を細かく設定しておくと、歌い手の実在感が増すんです。360 Reality Audioならさらに奥行きと手前、それから上下に音を置けるので、ダンスのフォーメーションに合わせて声の位置を動かすことも可能になる。バンドのライブ盤であれば、ドラムやベースみたいな基本的にプレイヤーが動かない楽器の定位は固定しておいて、ソロを弾くときギタリストが前に出てきたときだけ、その音も前に動かす。そうやって音が相対的に動く世界を生み出す手段として使うのが現段階では正解な気がします。

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