最先端技術を取り入れ、日本のアニソン・J-POP界をけん引する 音楽プロデューサー 佐藤純之介

アニソンリスナーがハイレゾ音源を仕掛けるきっかけに

   ――その佐藤さんの耳には2006年当時のアニソンってどう聞こえました?

   玉石混淆(ぎょくせきこんこう)でした。すごくいい音を鳴らしている楽曲もあれば、海苔波形(すべての帯域の音量・音圧を上げすぎたことにより、パソコンのエディタで楽曲情報を読み込むと、焼き海苔のような長方形として表示されてしまう波形のこと)......音が詰まりすぎているものもありましたし。

   ――ところがアニソン業界はハイレゾ対応も早かった。再生機器や配信サイトが普及しだした2014年ごろにはすでに豊かなダイナミックレンジのハイレゾ音源を積極的にリリースしていた。

   ある配信サイトのウィークリーベスト100のうち90曲がぼくが手がけた楽曲だったこともあります(笑)。

   ――そのハイレゾとの親和性の高さってリスナーの気質によるものだったりします? 新しいテクノロジーにビビッドに反応する、いい意味でのオタク気質が強いタイプがアニソンファンには多いというか。

   まさにまさに。ぼく自身オーディオオタクだし、アニソンの世界の人間だから、すごくわかるんですけど、最新のデジタル技術が大好きなんですよね。しかも毎年中野で開催される「ヘッドフォン祭」でリスナーに会ってみると、ホントにメチャクチャ細かく聴いてくれているんです。その曲を作ったぼくですら気付いてなかったことまでチェックしていたりして。そんな人への誠意を尽くしたいというのが、いち早くハイレゾ音源を仕掛けようと思った大きな動機だし、リスナーの姿がぼくたちの音質に対するフィロソフィーを変えてくれさえしました。

   ――ちなみに佐藤さんのハイレゾ初体験は?

    まさにハイレゾ配信を始める直前じゃないかな。FitEarでカスタムイヤホンを製作してもらって、アユートからハイレゾ対応プレイヤーを提供していただいて。ただ、当時はあまりハイレゾを聴かなかったんですよ。

   ――それはなぜ?

   レコード会社の人間としてはいかに多くの方に音楽を届けるか? が最大のミッションだったので。2006年当時の現場では、繁華街の拡声器みたいなスピーカーで再生しても歌詞を聴き取れる「街鳴り」が重視されていたし、2010年代初めは、音楽は16bit/44.1kHzのCDや、iPodのようなプレイヤーやスマホの付属イヤホンで鳴らす圧縮音源を通じて音楽を聴くのが一般的。その環境でどう聴いてもらうか、ということにこだわりたかったんです。

   ――しかしその直後にハイレゾの普及が進んで、音質にもこだわれるようになった。

   しかもTECNOBOYSの2ndアルバム(2014年リリースの『good night citizen 』)をCD音質でミックスしてマスタリングも済ませたあと「ちょっとハイレゾを試してみようかな」ということで、24bit / 96kHzにコンバートし上で再ミックスしてみたことがあって。その音源をメンバーと一緒に聴いてみたら、全員で「これはヤバイ!」と。アップコンバートしただけだったのにまるで音が違っていた。

   ――"アナログ"シンセもハイレゾで録ると音が変わるんですか?

   例えばローランドのドラムマシン・TR-808のバスドラムって実は20Hz帯みたいな可聴範囲を超えた低い音域も含んでいたりするんですけど、ハイレゾならそれもちゃんと記録できます。だからこそ「これなら勝てる!」「誰とも違う音楽を作れる!」って確信したんです。生楽器としてアナログシンセを扱うTECNOBOYSがその音をハイレゾで録れば、ソフトウェアシンセを使っているアーティストとは違う、圧倒的に独自の存在になれるって。そして今まで以上にヴィンテージシンセを買い漁るようになり、ハイレゾ沼にハマったつもりが、再びシンセ沼にも沈められることになりました(笑)。

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