子どもの頃からの夢を現実にした春奈るな。 アニソンを自分らしく歌えるのは アニオタだからこそ
2012年のメジャーデビュー以来、「Fate/Zero」「ソードアート・オンライン」「冴えない彼女の育てかた」「〈物語〉シリーズ」「パズドラ」など、人気のアニメ作品のテーマソングの数々を歌ってきた春奈るな。そんな名うてのアニソンシンガーにして、ファッションモデル、さらには無類のアニメ・ゲームマニアとしても知られる彼女が今愛用しているイヤホンがソニーのテーラーメイドイヤホンJust earだ。
さまざまなオタクコンテンツを貪欲に摂取し、また自らもクリエイター・表現者として活躍する春奈るなのこれまでと、新型コロナ禍に見舞われた現在の活動について、彼女と彼女の音楽について迫った。
自粛期間の支えはネットでの活動
――春奈さんは昨年、ジャジーな『ルパとアリエス』とゴシックテイストの『回転木馬』というデジタルシングルと、アニメ「冴えない彼女の育てかた」(「冴えカノ」)シリーズのコンセプトアルバム『glory days』を発表するなど、かなり野心的な活動をなさっていました。
はい。
――で、今年3月にはシングル『PEACE!!!』をリリースして、6月にはホールワンマンライブ『春奈るな LIVE 2020 "Infinite Luna-Jyu"』の開催を予定していました。
なのに新型コロナで......。
――『PEACE!!!』のリリースイベントやワンマンライブは軒並み中止になりました。この春の自粛期間ってなにをなさっていました?
基本的には「あつまれ どうぶつの森」を何かに取り憑かれたようにやっていました(笑)。4月に買ったんですけど、すでにプレイ時間が500時間を超えてますから。あとはInstagramでライブ配信をやったりとか......。
――Twitterではファンにリプライを返す「リプ返祭り」を開いたりもしてますよね?
いわゆる「おうち時間」は意外と楽しいんですよね。私みたいなオタクにとって、自宅でできることはたくさんあるんだとあらためて知ることができました。ネットもそうだし、アニメを観るのもそうだし、ゲームをやるのもそうですし。「オタクでよかったぁ」って痛感しました(笑)。
――歌えない、ファンに会えないことがストレスになったりは?
正直な話「これからライブの形はどうなるんだろう?」「いつになったら前みたいな活動ができるんだろう?」って焦りもしたし、これまでどれだけ恵まれた環境にいたのかも実感させられました。そのストレスや寂しさを解消する、精神的な助けとしてネットがあったのかもしれないですね。ファンのみんなとSNSではつながることができたから。YouTubeに歌っている動画『PEACE!!!』(Live EDIT)をアップしているのにもそういう理由がありますし。
――バンドの人たちがそれぞれリモートで演奏している様子と、春奈さんが歌っている姿をミックスした、かなり凝った映像を公開していますけど、その映像しかり、インスタライブしかり、春奈さんの提案で始まった企画なんですか?
もともとは、ワンマンライブに向けてバンドメンバーと一緒にSNSで盛り上げていけたら、と話していたんです。そうこうしているうちにライブが中止に決まって、せめてライブの代わりにと動画を撮りました。インスタライブは、渋谷PARCOにあるセレクトショップ「fraisier」さんと私のコラボTシャツを紹介するために初めてやってみました。「そういうツールがあることだし、もっとやってみたらいいのかな?」と思って本格的に取り組むようになりました。
セーラームーンで目覚めた‶アニソンの素晴らしさ″
――春奈さんにはボーカリストのほかに、ファッショニスタ・ファッションモデルという横顔もあって、この春にはほかにもキャップブランドNEW ERAの「THE NEW ERA BOOK Spring & Summer 2020」にも登場されていましたよね。ところで、そのファッションの道への目覚めと音楽への目覚めって、どちらが早かったんですか?
音楽が完全に先ですね。5歳のころ「セーラームーン」シリーズを好きで観ていたのをきっかけにアニソンの素晴らしさを知ったので。
――当時の春奈さんにとっての‟アニソンの素晴らしさ"って何だったのですか?
「この音楽は耳だけじゃなくて、視覚とかいろんな感覚をくすぐってくれるな」と幼いながらに感じていたんだと思います。映像と結び付きの強いジャンルだから、ほかのジャンルの音楽以上に五感を刺激してくれるというか。昔の曲を聴いていると、当時嗅いでいた匂いを思い出すことすらありますから(笑)。それで「アニメの楽曲を歌える人になりたい」って夢見るようになって。高校生のころ『KERA』っていうゴシック&ロリータ専門誌の読者モデルになったんですけど、それも「いつか音楽の仕事につながるといいな」って考えたからなんです。
――当然ゴシック&ロリータの世界が好きだからモデルになったけど、実はその先のキャリアもにらんでいた、と。
結果的にはモデル活動が直接音楽活動につながることはなかったんですけど、そういう思いもありました。
――じゃあ当時は読モをやりながら、ボイストレーニングを受けたりしていた?
ボイトレは中学生のころからやっていて、そのころ、『レンタルマギカ』というWebラジオのドラマパートの主題歌を2曲歌わせていただきました。
――それはどういうきっかけで?
とにかく自分でデモテープを録って、いろんなオーディションに送っていたので(笑)。そうしたらWebラジオの制作スタッフの方が声をかけてくださって、ボイトレの先生もその方に紹介していただきました。
――そして春奈さんのキャリアの転機になったのが、2010年の「第4回全日本アニソングランプリ」。このコンテストのファイナリストになったことがきっかけでメジャーデビューしています。
いろんなところにデモテープを送りまくっていた中学生のころ以上に「アニソングランプリ」には人生を賭けていたので、本当にうれしかったし、ちょっとホッとしたりもしました。
――人生を賭けていたんですか⁉
アニマックスというアニメ専門のCSチャンネルが主催していることもあって「アニソングランプリ」には優勝者をアニメの主題歌でデビューさせるという明確なコンセプトがあったので。まさに子どものころからの夢が叶うコンテストだっただけに気合いは入りましたね。
――ただ惜しくも優勝は逃している。それでもSMEレコーズ(当時。現在はSME内のSACRA MUSIC所属)の目に留まった理由ってご自分でどう分析しています?
なんでなんですかね(笑)。漠然としていて申し訳ないんですけど、アニメや音楽に対する愛や熱が伝わったのかなあという気はします。それこそ、読者モデルをしていたことも少しはプラスになったかも。
音楽とファッションはブレない軸
――春奈さんは現在、音楽とファッションという子どものころから好きだったものを仕事にしています。なぜ子どものころの夢を2つもかなえられたと思います?
なんでなんだろう(笑)。小さいころから自分には音楽とお洋服しかない、って思ってたからかなあ。
――音楽と洋服しかない?
すごく不器用だし、運動も全然できないし、勉強もそんなにできるタイプではないんですけど、歌うこととファッションについてだけは自信を持って「私、これ得意」って言い切れたんです。だから子どものころから「絶対にそういう世界で生きていきたい」という軸みたいなものがずっと心の中にあって、今でもそれがブレていないから、周りの人が私のことを見つけてくれたのかもしれないですね。
――そういう軸のブレない人であれば、2012年発表の『空は高く風は歌う』が「Fate/Zero 2ndシーズン」、『Overfly』が「『ソードアート・オンライン』フェアリィ・ダンス編」と、デビューまもなく自身の楽曲が人気TVアニメのテーマソングに採用されたことにもあまりプレッシャーは感じなかった?
いえ、ものすっごいプレッシャーでした。私自身がアニメオタクだから、視聴者がアニメの世界観に合ってないテーマソングを聴くときっとツラくなるとわかるんです。だからFateやSAO(ソードアート・オンライン)のファンの人に「なんかあの曲、違うよね」って言われたらどうしよう、という恐怖もあったし、作品ファンの方をガッカリさせてはいけない、という気負いもありました。
――でも今の春奈さんは、すごく軽やかにアニソンシンガーの活動をなさっている印象を受けます。
自分らしくアニソンを歌えているな、と思えるようになったのは『君色シグナル』(2015年の7thシングル)をレコーディングしていたころからかなあ。『君色シグナル』の歌詞ってものすごくストレートに私の心に響いてきたから、歌っている声色や表情もすごく自然でリアルなものになった気がするんです。実際、MVを見返してみると明らかに顔つきが違うんですよ。
――しかも『君色シグナル』は「冴えない彼女の育てかた」のオープニングテーマ。作中に流れる春奈さんの歌声も相まってアニメ自体人気を呼んで、その後テレビアニメはシリーズ化されたし、劇場版も制作された。さらに最初にお話しした通り、春奈さんはそのテーマソング集『glory days』をリリースしている。
確かに「冴えカノ」とは本当にいい関係を築かせてもらっている気がします。
――あと『君色シグナル』の詞がご自身の心に響いたとおっしゃるように、ご自身の曲を歌うときはメロディやアレンジよりも歌詞の世界に寄り添っている?
そうですね。これはデビュー当時からやっていることなんですけど、歌詞をいただいたら必ず1回は朗読してからレコーディングに臨むようにしていますし。
――必ず一度歌詞を咀嚼してみる、と。
一度「言葉」としてインプットしてみると、その曲の世界がはっきりわかるし、レコーディングのときにもメロディやリズムに流されることなく歌えるんです。
――一方、作詞をするときは、何にインスピレーションを受けています?
アニメのテーマソングの場合は、アニメ作品そのものや原作の小説・マンガですね。まず脚本や原作を読んで一番共感できるキャラクターに対する想いや、そのキャラクターが抱えているだろう感情を箇条書きにして、そのあとメロディラインは気にせず詩みたいなものを書いて、そのあとメロディに合わせて言葉を削っていきます。
――ノンタイアップの曲は?
いったん詩を書いてから歌詞にする作業は同じなんですけど、基本的にファンに向けた手紙のつもりで書いています。根がオタクだからなのか、好きなアニメやゲームに対する想いを歌詞にすると、なんか二次創作みたいになっちゃうので(笑)。推しているキャラクターへの想いはアニメのテーマソングで存分に書くようにしています。
――最新シングル曲『PEACE!!!』であればアニメ「パズドラ」のテーマソングだから......。
職権乱用とばかりに〝推し″への愛を歌わせていただきました!(笑)
Just earで聴くたび新しい発見がある
――最近「Billboard JAPAN」の連載企画で推し曲のプレイリストも公開なさってましたよね。
私がこれまでに聴いてきたアニソンの中でも神曲ばかり集めてみました。
――今日もファッションの一部のように身に着けていらっしゃいますが、普段はその神曲たちをJust earで聴いている?
そうですね。イヤフォンやヘッドフォンは結構種類を持っているんですが、ここ数年はソニーのワイヤレスイヤホンをメインで愛用していて、Just earは今年になって作りました。実は2年ぐらい前にアニメイベントの「AnimeJapan」というイベントでソニーブースに寄らせてもらう機会があって、そこに「コラボしてほしいアーティストは?」というアンケート用紙があったので、こっそり「春奈るな」って書いたんですよ(笑)。
――結果、Just earを作ることになった、と(笑)。イヤホンを作るときはどういう音質を目指しました?
アニメソングのほかにもヴィジュアル系の楽曲や、アニメ作品のドラマCDやゲームの音声も聴くので「パキッとした音にしてください」というリクエストをさせていただきました。
――「パキッとした音」?
アニソンやドラマCDはやっぱり声を楽しみたいから、ボーカルの帯域を聞こえやすくしてほしかったのと、V系に似合う硬くて重たいゴリっとした音を作ってほしかった感じですね。
――実際、音鳴りはどうですか?
今まで使っていたイヤホンやヘッドホンでは聴こえていなかったような細かい音まで聴き取れるようになりました。だからプレイリストにあるような小さいころから聴きなじみのある曲でも、Just earで聴くたびに新しい発見があるんですよ。ゲームだと、効果音や動作音のポジションがくっきりとしていて、没入感がすごいんです。あっ、あとJust earだとドラマCDの推しの声がより尊くなります!(笑)
――でもそれだけ「声が聞こえる」ということは、ファンの方が春奈さんの楽曲をJust earで聴くことを考えると......。
責任重大ですよね(笑)。ホントに息づかいや口の開け方まで伝わってきますから。でもそこまで伝わるのはうれしいことでもあって。今までも歌のニュアンスには本当にこだわってきたつもりなので、その意図がちゃんと伝わってくれるのはいいことだな、と思ってます。
――最後にちょっと話が変わるんですけど、2020年後半戦、なにをしましょう?
まだ「ライブをやります!」とは言えない状況なので、ネットを使って新しいことに挑戦していこうと思っています。これまで通りの活動が出来ない分、方法に拘り過ぎず、いろいろな可能性を形にしていきたいですね。
【プロフィール】
春奈るな(ハルナ・ルナ)
10月11日生まれ。高校時代からファッション誌『KERA』の読者モデルとして活躍する傍ら、2012年、テレビアニメ「Fate/Zero 2ndシーズン」のエンディングテーマ『空は高く風は歌う』でメジャーデビュー。以来「ソードアート・オンライン」シリーズや「〈物語〉シリーズ」、「冴えない彼女の育てかた」シリーズなどのテーマソングを担当し、国内外で高い評価と人気を集める。また、ウェディングドレスブランド「LUNAMARIA」のデザインプロデュースを手掛ける他、モデルとしても活動する。2020年3月には、TVアニメ「パズドラ」エンディンテーマ『PEACE!!!』をリリースした。
取材・文 成松 哲
撮影 川本史織