音楽とわたし 現代における ″生ライブ″ 考
大槻ケンヂさん
これを書いているのが2020年6月5日である。東京アラートが発令中。いつ再自粛要請が出てもおかしくない状態だ。もちろん生でライブはできない。僕の場合、今年2月後半から現在まで10本以上のライブが中止か延期になった。無観客配信ライブを2本行った。今後も生でライブをやるメドはたっていない。この先もし仮に対コロナワクチンが完成しないなどということがあったなら、2度と生ライブは不可能なのかも知れない......。
それでも生でライブをやりたい。だって、あの身と心をゆさぶる激しい振動の共有は生ライブでないと起こり得ないものだから。どうすれば生でライブがやれるのか? 考えてみた。
1.アリ・ペールワン方式
その昔アントニオ猪木がパキスタンの英雄アクラム・ペールワンと対戦した時、野外会場は人であふれ返り、遠い丘の上にも人がいて観ていたという。プロレスのかわりにライブをやって、はるか遠方から観てもらうというソーシャルディスタンス・コンサート方式だ。
2.UMA探索方式
ミュージシャンが山や森に入り、木や岩かげでこっそり歌う。リスナーは方位磁石や双眼鏡を持って彼を捜す。しかし、見つかってしまっては密が発生する可能性が高いから、発見されたと気づいたミュージシャンはサッとまた逃げる。それをリスナーがまた追う。UMA、ツチノコやヒバゴンとそれを追うUMA探索者との関係に近いコンサート方式である。別名・カムイ外伝方式。
3.ノーキャパオーバーライブ方式
とにかく密が発生しなければいいのである。であるなら絶対にキャパを超えないライブをやればよい。つまり、ミュージシャンが自身の人気をキッチリ把握し、その身に合わぬ動員でなければイッパイにならない会場で演奏したらいい。簡単だ、ガラガラにすればいいのだから。たとえば、私はソロの弾き語りで数百人の会場をなんとかイッパイにする自信はある。だが、これを数万人規模にしたならどうか? ハッキリ言って現状では無理だ。
ムリムリ、入らない入らない。いやしかし、そこを一発ドーン!と東京ドームを押さえちまったらいいんじゃないのか? 残念ながら満員にはほど遠いであろう。ガラガラかもしれない。でも、どうだい? ガラガラなら換気もよくって密にもならない。これだ。全ミュージシャンがノーキャパオーバーライブをやりゃいいのだ。まずは「大槻ケンヂ・ソロ弾き語りat東京DOME」。
どんなでかい会場でも満員になる超人気アーティストはあきらめてください。
4.フジロックパーク方式
残念ながら2020年はフジロックも延期になってしまった。でも私の考えた「フジロックパーク」なら絶対安心。まずリスナーはソーシャルディスタンスを考慮しつつバスに乗っていただく。その車両が何十台も連なってサファリパークに入っていく。サファリのあちこちには象やライオンのかわりにバンドやミュージシャンがいて演奏しているのだ。リスナーを乗せたバスが近づく。「キャー、筋肉少女帯よ!!」「わー! 手を振っているぞー!!」。御安心! バスの窓は特製のガラスでどんな飛沫も防御してくれる。「わー! ストーンズだ!! ローリングストーンズもいるぞー!!」
「〽 本当に本当に本当に本当にストーンズだ~! 近づいちゃって近づいちゃって~ど~し~よ~う~ フ~ジ~ロックパ~ク!!」
CMソングはもちろん、串田アキラさんだ。
そんなことを、ライブの無くなった日々にボンヤリ考えて一人でウフフ、などと笑っている。ああ、早く生でライブがやりたい。
大槻ケンヂ(おおつき・けんぢ)
ミュージシャン、作家、シンガーソングライター 1966年東京都出身。88年にメジャーデビュー。99年筋肉少女帯を脱退し、バンド特撮を結成する。2006年には筋肉少女帯に復帰。そのほかにもユニット・オケミスや弾き語りライブなどの活動も行っている。小説やエッセイ、作詞などの執筆活動、テレビ、ラジオ、映画出演など音楽以外のフィールドでも活躍中。多くの著作もあり、『くるぐる使い』(角川文庫)、短編SF小説『のの子の復讐ジクジク』で2年連続星雲賞を受賞。『グミ・チョコレート・パイン』(角川書店)など映画化された作品も多数ある。
大槻ケンヂ オフィシャルサイト
https://www.sawanohiroyuki.com/