"世界にひとつだけ" Just earの輝きを生み出す、ソニー・太陽のものづくり

ひとつのJust earは一人のマイスターの手によって完成する

   Just earの製造体制は、各工程を専門スタッフが担当する分業制ではない。

   耳型の加工より後の工程は、ひとつのJust earに対して一人のスタッフが担当している。そのため、「この人の耳型は小さいから部品の組み込みにも工夫が必要そうだ」など先の作業をイメージしながら工程を進めていくこともできる。

   スタッフには、Just ear製作の全工程についての高度な技術やノウハウ、そのすべての習得が求められる。シェルの製作にしても、気泡をなくす技術だけでなく、様々な工具を使い分け、指先の感覚を研ぎ澄ませて削り出しや磨き上げなどいくつもの熟練技を身につけねばならない。

余分なラッカーを顕微鏡で確認しながらそぎ落としていく。この作業によってシェルの透明度が増す
余分なラッカーを顕微鏡で確認しながらそぎ落としていく。この作業によってシェルの透明度が増す

   ラッカーコーティングによる表面の仕上げにおいても、シェル全体に一定の厚みに滑らかにラッカーをまとわせ、あの輝きを生み出す技は並大抵のものではない。 一つひとつの形が違うシェルの表面を均一に仕上げるためには、それぞれに合わせた作業が求められる。形の癖を読み取り、「どの方向からラッカーを流せば、ラッカーが厚くなってしまう箇所ができにくいか」など、経験とノウハウを生かした対応が必要なのだ。

   クリアで美しいシェルが出来上がるとようやくパーツの組み込みの工程となる。これもかなり繊細な作業だ。パーツの配置や音を通すチューブの取り回しには、そのシェルの形や大きさに合わせての調整が必要だ。その最適解を導き出せるようになるまでに、どれほどの経験が必要なのだろうか。耳にフィットするシェルに、音響的に最適な配置でドライバー等が組み込まれることで、コンサルティングで導き出されたチューニングが実機で完全に再現される。Just earの「あなたのためだけの音」はこうして、製作スタッフの努力と技術に支えられている。

   Just earの製作スタッフは、「マイスター」と呼ばれることがある。彼らが果たしている役割の大きさ、技術の高さを知れば、ふさわしい称号と言えるだろう。マイスターの数は現在7名。その人選は宮本氏に任されている。

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   「製造チームに適した人材は、手先の器用さ、能力はもちろんですが、チームに定着している現在のスタッフたちを見ると、Just earの製作に大切なのは、忍耐力や根気強さといった精神面だと思いますね。いくら正しい手順で丁寧に作業をしても気泡はシェルに発生する。それを地道に修正し、次に向けて作業の精度を高め、それでもやっぱりうまくいかなかったりもする。だけどその繰り返しでしかJust earの製作技術は習得できない。それに耐えていける忍耐力がないことには、手先の器用さも何も発揮できませんから」

   自らの技術に磨きをかけ、次に経験を生かす。そういう人材が、Just earの製作マイスターとなり得るのだ。

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