〔 音とデザイン 第1回 〕

最先端のアートは音楽とともに生まれる
コンセプター坂井直樹さん×アーティスト真鍋大度さん

MRI撮影中に音楽を聴いて生み出す――真鍋さんの最新メディアアート作品とは

坂井:そろそろ対談を締めくくっていかなければいけないんだけど、最後に真鍋さんがこれから挑戦してみたいことを教えて欲しいな。

真鍋:力を入れているのは、fMRIデータとTMS(経頭蓋磁気刺激法)を利用したメディアアート作品づくりです。前者はどういうものかというと、僕がMRIの中に入って撮影中に音楽を聴き、その時の視覚野の脳活動を使って映像を生成するという作品です(※)。音と映像の関係を解き明かしたい、という興味から発想しました。後者はまだまだこれからという感じですね。

(※)dissonant imaginary(2019)
dissonant imaginary at Sonar Barcelona 2019

fMRI for dissonant-imaginary(190322)

my brain scan test 3

坂井:脳科学と音楽に関心があるんだね。

真鍋:科学者の方の知見をお借りして作品を作る感じですね。MRIは京都大学の神谷之康先生とのコラボレーションです。

脳波を使った映像を見せてくれる真鍋氏。発売されたばかりのApple Mac Proと2台のApple Pro Display XDRというパワフルな環境が整っている。
脳波を使った映像を見せてくれる真鍋氏。発売されたばかりのApple Mac Proと2台のApple Pro Display XDRというパワフルな環境が整っている。

坂井:たしかに昔から仮説としては、音と映像が相互に変換できるのでは、ということが言われているね。それが実現できたら、応用できそうなことはあるの?

真鍋:以前、アルスエレクトロニカというリンツで行われているメディアアートのフェスティバルで無声映画に音楽をつける、というイベントに参加したことがあります。このイベントは当然ながら手動でしたが、無声映画を見ている時に頭の中で鳴っている音を取り出す作業でした。映画を見て音楽のことを考えるだけで、自動で音を生成する――そんなことが将来的には出来るのではと考えております。

坂井:真鍋さんと話してきて、自分の身体と表現が関係していることが多いと思ったな。このMRIもしかり、さっきのような顔に筋電位センサーをつける作品もそうだよね。しかも、そういうことは必ず自分で試している。

真鍋:自分がまず体験して、見てみたいものがあるからだと思います。音楽制作もそうですが、自分が聴きたい音楽を最初に作りますね。自分がリスナーとなりながら作り上げ、それをお客さんに伝える――その感覚に近いですね。

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坂井:ところで、素朴な疑問だけれど、メディアアートはビジネスにつながっているの?

真鍋:今だったらビジネスにするのは簡単ですね。大衆受けする様に迎合していけば良いだけなので。本来のメディアアートは新しい技術を用いた実証実験、社会実装的な側面があります。ライゾマティクスは作品をパッケージをしていない分、そういったチャレンジがしやすいですね。

坂井:なるほど。

真鍋:ライゾマティクスのエンジニア、クリエイターは言われたことを熟すというよりも自らチャレンジを見つけて動くタイプがほとんどで、そういう風習が根付いていますね。僕もいつも刺激をもらって勉強させてもらっています。

坂井:その実験がどんな形になって、我々の前に出てくるのかワクワクするね。今日の話を聞いて面白かったのは、真鍋さんにとってのデザイン――表現とは、その根幹にプログラミングがあることが特長だということ。そして、ライゾマティクスが「リサーチ」を重んじていることからもわかるように、誰かがやったことはもうやらないし、同じような事例だったらそれ以上のことをやる。真鍋さんは、研究者に近い人だと思いました。また、自分の興味に基づく実験に始まり、メディアアート作品として発表する。さらにそれを応用したインタラクションデザインで、お客さんを楽しませてくれる。段階を踏んだこうした展開の仕方に真鍋さん、ライゾマティクスの独創性があり、新しい価値はこうやって生まれてくるのだなとあらためて感じました。今日はありがとうございました。

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真鍋さんのお気に入りガジェットを公開!

最後に真鍋さんが最近使っている、お気に入りのガジェットを4つ紹介してもらいました。

【写真左】オーディオインターフェース、Apollo twin X(Universal Audio)。声や楽器などのアナログの音をパソコンで使用する際に、高音質なデジタルデータとして変換できる機材。【写真右】コンデンサーマイク、MOTIV MV51(Shure)。パソコンやスマートフォンに接続して、歪みを極力抑えたクリアなサウンドで録音できるデジタルラージダイアフラム・コンデンサー・マイクロホン。真鍋氏がラジオを録音するときに使用するという。
【写真左】オーディオインターフェース、Apollo twin X(Universal Audio)。声や楽器などのアナログの音をパソコンで使用する際に、高音質なデジタルデータとして変換できる機材。【写真右】コンデンサーマイク、MOTIV MV51(Shure)。パソコンやスマートフォンに接続して、歪みを極力抑えたクリアなサウンドで録音できるデジタルラージダイアフラム・コンデンサー・マイクロホン。真鍋氏がラジオを録音するときに使用するという。
【写真左】デジタル一眼レフカメラ、ILCE-9 α9(ソニー)。フルサイズ(35mm)のCCDを搭載したミラーレス一眼カメラ、αシリーズの最高峰モデル。【写真右】スマートフォン用暗室(フォトプリンター)、Polaroid LAB(Polaroid Originals)。スマートフォンやタブレットに保存されているデジタル画像を、フィルムに投影することで、ポラロイド写真として現像できるユニークなデバイス。
【写真左】デジタル一眼レフカメラ、ILCE-9 α9(ソニー)。フルサイズ(35mm)のCCDを搭載したミラーレス一眼カメラ、αシリーズの最高峰モデル。【写真右】スマートフォン用暗室(フォトプリンター)、Polaroid LAB(Polaroid Originals)。スマートフォンやタブレットに保存されているデジタル画像を、フィルムに投影することで、ポラロイド写真として現像できるユニークなデバイス。

プロフィール

真鍋大度(まなべ・だいと)

アーティスト、インタラクションデザイナー、プログラマー、DJ。メディアアート、エンターテイメント、建築、デザイン分野を横断しながら活動するクリエイティブ集団、Rhizomatiks(ライゾマティクス)取締役。1976年、東京都生まれ。東京理科大学卒業後は大手電機メーカーなどで働いたのち、2002年に進学したIAMAS(岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー)でプログラミングを用いた表現を学ぶ。2006年ライゾマティクスを設立。Perfumeをはじめ、Björk(ビョーク)、サカナクション、坂本龍一などの舞台演出、テクニカルサポートで手腕を発揮する。
Twitter:daitomanabe
Web:http://www.daito.ws/
Rhizomatiks https://rhizomatiks.com/


坂井直樹(さかい・なおき)

コンセプター。デザインコンサルティングカンパニー、Water Design代表取締役。1947年、京都府生まれ。1966年、京都市立芸術大学入学後に渡米し、サンフランシスコで「TattooT-shirt」を手掛けてヒット。帰国後の1973年、ウォータースタジオ社を立ち上げたほか、テキスタイルデザイナーとして活躍したのち、1987年、日産「Be-1」のプロデュースで注目を集める。その後も、日産「パオ」「ラシーン」、オリンパス「O-product」などのコンセプトデザインに関わってきた。auの社外デザインプロデューサーとしても手腕を発揮した。元慶應義塾大学 SFC 教授、元成蹊大学客員教授。
Twitter: naokix11
Web:Water Design https://water-design.jp/

Photo:葛西亜理沙

Text:鳥居裕介


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