タケ×モリの「誰も知らないJ-POP」佐野元春「或る秋の日」
出会いと別れ、そして今
誰もが若いままでは生きて行けない
アルバムの最後の曲は2013年に配信で発売されたクリスマスソング「みんなの願いかなう日まで」だ。
佐野元春には、85年に発売されてトップ10入りしたクリスマスソング「Christmas Time in Blue~聖なる夜に口笛吹いて」がある。"愛してる人も愛されてる人も""泣いている人も笑っている君も""平和な街も闘ってる街も""よく働く人も働かない人も""お金のない人もありまっている人も"と立場や情況を超えた全ての人の祝福を願う歌は、カップルのデートソングが殆どと言っていい日本のクリスマスソングの中では異例のジャーナリスティックな視点の名曲だ。
「みんなの願いかなう日まで」は、そこまで具体的には歌われていない。むしろ多くを語らないことの中に言葉以上の想いが込められている。"みんな"という端的な言葉が意味の広さ。それぞれの人生が決して平板で順風満帆ではないということが暗黙の了解になった年齢ならではの関係。その中には"いなくなった大事な人"も含まれている。
誰もが若いままでは生きて行けない。
いくつもの出会いと別れを繰り返しながら、それでもこうやって生きている。
「秋」というのは、そんなことを感じさせる季節でもあるだろう。そして、そんな風に感じるのが「成熟」ということでもあるのかもしれない。「或る秋の日」は、そういう人たちにこそ向けられたアルバムなのだと思う。
(タケ)
タケ×モリ プロフィール
タケは田家秀樹(たけ・ひでき)。音楽評論家、ノンフィクション作家。「ステージを観てないアーティストの評論はしない」を原則とし、40年以上、J-POPシーンを取材し続けている。69年、タウン誌のはしり「新宿プレイマップ」(新都心新宿PR委員会)創刊に参画。「セイ!ヤング」(文化放送)などの音楽番組、若者番組の放送作家、若者雑誌編集長を経て現職。著書に「読むJ-POP・1945~2004」(朝日文庫)などアーテイスト関連、音楽史など多数。「FM NACK5」「FM COCOLO」「TOKYO FM」などで音楽番組パーソナリテイ。放送作家としては「イムジン河2001」(NACK5)で民間放送連盟賞最優秀賞受賞、受賞作多数。ホームページはhttps://takehideki.jimdo.com/
モリは友人で同じくJ-POPに詳しい。