タケ×モリの「誰も知らないJ-POP」菅田将暉、「LOVE」
「ギザギザな夢」の世代

優しいアルバム

   アルバム「LOVE」で特筆しなければいけないのは、あいみょんが詞曲を書いた「キスだけで feat. あいみょん」だろう。テーマは女性の生理。しかも「私 今日は女だから」という部分を菅田将暉に歌わせている。

   古いところではサザンオールスターズの「恋するマンスリーデイ」が、思い浮かぶくらいで歌にするにはハードルの高いテーマを、あいみょんはいじらしいまでのラブソングに仕上げている。しかも、女性の気持ちを男性が歌い、男性の心理を女性が歌う。「男らしさ」や「女らしさ」という「性差」を超えた稀有なラブソングだった。

   あいみょんは95年3月生れ。つまり「バブルを知らない世代」と言って良いだろう。もし、人々の「希望」が、社会的な環境や経済的事情に左右されるとしたら、その実感がないままに成人した世代である。

   ミュージシャンのインタビューで「世代」という言葉に肯定的な反応が返ってくるようになったのは、この数年のような気がしている。具体的に言えば2011年以降だろう。去年のRADWIMPSの「ANTI ANTI GENERATION」もそんな例だ。

   それ以前にしばしば耳にしたのは「世代ではなく個人」という反応だった。そうした答えは「安易に一括りにしないでくれ」という自意識の表れだったように思う。

   近年は違う。「同じような時代を生きている」「人はひとりでは生きていけない」という意識。それが今の若者たちの「優しさ」にもつながっているのではないだろうか。

   菅田将暉の「LOVE」は、優しいアルバムだと思う。「ギザギザな夢」を見ることしか出来ないまま「ものさし」を探している若者たちのラブソング。「よくわからない」彼らに対しての「新しいものさし」を大人たちも作らなければいけないのだと思う。

(タケ)

タケ×モリ プロフィール

タケは田家秀樹(たけ・ひでき)。音楽評論家、ノンフィクション作家。「ステージを観てないアーティストの評論はしない」を原則とし、40年以上、J-POPシーンを取材し続けている。69年、タウン誌のはしり「新宿プレイマップ」(新都心新宿PR委員会)創刊に参画。「セイ!ヤング」(文化放送)などの音楽番組、若者番組の放送作家、若者雑誌編集長を経て現職。著書に「読むJ-POP・1945~2004」(朝日文庫)などアーテイスト関連、音楽史など多数。「FM NACK5」「FM COCOLO」「TOKYO FM」などで音楽番組パーソナリテイ。放送作家としては「イムジン河2001」(NACK5)で民間放送連盟賞最優秀賞受賞、受賞作多数。ホームページはhttps://takehideki.jimdo.com/
モリは友人で同じくJ-POPに詳しい。


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