イヤホンの歴史 3 カナル型イヤホンの誕生 ~なぜ「耳栓型」イヤホンは広まったのか~
ロックバンド、ヴァン・ヘイレンとカナル型イヤホンの意外な関係とは?
一方で、1995年頃から、音楽のライブステージで、ミュージシャンがステージ上の大きな音の中でも、自分の楽器や声、他楽器とのミックスバランスをしっかり聴けるプロ用のツールとしてカナル型イヤホンが普及し始めます。
そのきっかけとなったのは、Jerry Harvey(ジェリー・ハービー)という人物の活躍です。当時の彼は、米国のロックバンドである、VAN HALEN(ヴァン・ヘイレン)のライブ時にPA(観客に聞きやすくするための音の調整)を担当し、音響エンジニアとして活躍していました。そんなジェリー・ハービーが、ドラマーのAlex Van Halen(アレックス・ヴァン・ヘイレン)のリクエストに応え、片側にBA型ドライバーを2基搭載したカナル型のステージ用モニターイヤホンを開発したのです。こちらの製品は、ステージでも演奏がしっかり聴こえ、なおかつ、これまでのようにモニタースピーカーで大きな音を出さなくて済むので聴覚も保護できると、アレックスが大いに気に入りました。そして、ジェリー・ハービーはこのカナル型モニターイヤホンの市販化を決意。Ultimate Ears社を興すこととなりました。
ヴァン・ヘイレンのドラマー、アレックス・ヴァン・ヘイレン。ステージ上の轟音から、聴覚を保護し、より良い演奏を行うために、モニターイヤホンをジェリー・ハービーに依頼した。(出典:Flickr: Alex Van Halen - Van Halen Live 撮影:Craig ONeal Wikimedia Commonsより)
実際、Ultimate Ears社のステージ用モニターイヤホンは大いに好評を博し、一時期は75%までのシェアを獲得していたという話もあります。その後、Ultimate Ears社のステージ用モニターイヤホンを共同開発したWestone社が、当時マイクやアナログレコード用カートリッジなどで有名だったSHURE社ともカナル型イヤホン(もちろんステージ用です)を開発したり、自社ブランドでも発売をスタートしたりするなど、アメリカ西海岸を中心に、ジェリー・ハービーが起こした潮流は大きく広がっていきました。