音の匠にきく 補聴器の技術が生きるカスタムIEMの耳型採取
東京ヒアリングケアセンター 菅野 聡氏
カスタムIEM用耳型製作の難しさ
――話は変わりますが、東京ヒアリングケアセンターでは、補聴器のほかにJust earなどの、カスタムIEMの耳型製作なども行っていますが、こちらを始めたのにはどういったきっかけがあったのでしょうか?
実は、Just earに関わらせていただく以前から、様々なカスタムIEM用の耳型提供をさせていただいております。始めたのは青山店を立ち上げて間もなくの頃でしょうか。最初のきっかけは、海外の著名なサーカス団からステージ用カスタムIEMの耳型を作ってくれないか、という打診からでした。「インプレッション」とも呼ばれている耳型の採取に関しては、当時は無資格で行っている場合も多かったんです。耳の中の話ですので、時に危険な場合もあります。ですから、我々のような耳型採取にノウハウのある会社や人間が、注意深く作成することが必要だろうと、最初は社会的な意義も考えて依頼を受けることにしました。そして、実際に始めてみたところ、ご自身で耳の掃除をし過ぎたために、耳の中が傷だらけの人がいるなど、無資格はもちろん、ノウハウのない人が行うにはずいぶんリスクがある工程だと再確認できました。
――補聴器づくりと耳型採取では、何かノウハウの違いがあったりするのでしょうか。
耳型採取自体は、補聴器を製作する際の一工程と変わりありません。我々がこれまで培ったノウハウや安全性の確保が活かせる作業です。しかしながら、補聴器にはない難しさもありました。というのも、補聴器は製品の選定からメンテナンスまで弊社で一貫して担当していますが、カスタムIEMの場合は"耳型を採る"だけで、そこからカスタムIEMを製作するのは別の会社になります。また、カスタムIEMメーカーはひとつふたつではなく、様々なメーカーがあります。そのため、その耳型からどんなカスタムIEMが作られるかを、こちらでコントロールすることができないんです。
――同じ耳型でも、メーカーによってフィット感が異なったりしそうですね。
はい、完成したカスタムIEMを装着してみると、きつかったり緩かったり、一部分が当たって痛かったりと、全く同じ耳型を使っても不備が生じたりするのです。極端な例ですが、「カスタムIEMを何個作っても、痛みがある」というお話を聞いたことがあります。その方のお耳を見てみたところ、耳に小さなこぶがあったのです。おそらくメーカーではこのこぶを"耳型採取の不備"と思ってこぶがない状態に処理してしまったのだと思います。このお客様からは「Just earで、初めて痛みを感じなくなった」という感想をいただきました。こういった、自社で完結していないことの難しさがカスタムIEM用の耳型採取にはありました。
――具体的には、どういった対処をなされているのでしょうか。
Just earでは、その耳型でどんなイヤホン本体を作るのかを想像して、それを耳型に反映するようにしています。また、特殊なケースの耳型には、注意点などのコメント付けるなど、スムーズに製品が作り上げられるよう、配慮しています。
――単純に耳型を採ればいい、ということではないのですね。それは大変ですね。
はい(笑)いろいろと気を遣うところはありますが、お客様には満足いただいていると思います。