イヤホンの歴史 2  イヤホンの誕生 ~ポータブルオーディオという新世界~

    前回は、イヤホンの源流となるヘッドホンの誕生を紹介しました。今回は、イヤホンが開発されるきっかけとなった、ポータブルオーディオについて触れていきましょう。
    ヘッドホンは、コンサートホールのような空間でなく、スピーカーを使ったリスニングルームでもない、個々の人間がそれぞれに音楽を楽しめる、新しい音楽鑑賞のスタイルを与えてくれました。しかしながら、それはあくまでもオーディオ機器が用意された自宅など屋内での話であって、屋外で気軽に音楽は聴けませんでした。
    いつでもどこでも音楽が楽しめる、カセットテープを電池駆動で再生する小型で軽量な製品「ウォークマン」を生み出したのがソニーです。1979年に発売が始まり、今年でちょうど40周年を迎える「ウォークマン」。当時はソニー製ではなくても、カセットプレーヤーを始めとする、携帯音楽プレーヤーのことを"ウォークマン"と呼ぶ人は少なくはありませんでした。「ウォークマン」は広く社会に浸透し、そのファッション性からも当時の若者のライフスタイルを一変させたのです。

1979年7月1日に発売された、ステレオカセットプレーヤー「ウォークマン」の第一号機であるTPS-L2。ヘッドホン、MDR-3L2が付属した。写真提供:ソニー
1979年7月1日に発売された、ステレオカセットプレーヤー「ウォークマン」の第一号機であるTPS-L2。ヘッドホン、MDR-3L2が付属した。写真提供:ソニー
「ウォークマン」付属のヘッドホンは、自然なかけ心地で装着していることを忘れそうな「H・AIR」(ヘアー)シリーズとして、単体でも発売された。写真は自宅のオーディオで使いやすい標準プラグで、MDR-3L2よりも1メートルコードが長い、3メートルのコード仕様として発売されたMDR-3。写真提供:ソニー
「ウォークマン」付属のヘッドホンは、自然なかけ心地で装着していることを忘れそうな「H・AIR」(ヘアー)シリーズとして、単体でも発売された。写真は自宅のオーディオで使いやすい標準プラグで、MDR-3L2よりも1メートルコードが長い、3メートルのコード仕様として発売されたMDR-3。写真提供:ソニー

    厳密にいえば、「ウォークマン」誕生以前でも屋外で音楽を楽しむ機器はありました。その代表格が"ラジカセ"です。ラジオやカセットプレーヤー、スピーカーが一体となった乾電池駆動式のラジカセは、キャンプや公園などの屋外で音楽を楽しむことができました。しかしながら、「ウォークマン」はこれらと全く異なる新しいライフスタイルを提案してくれたのです。それが、自分の好きな音楽を気軽に持ち歩いてヘッドホンで聴く、ポータブルオーディオと呼ばれるリスニングスタイルです。
    そのため、「ウォークマン」には持ち運びしやすいヘッドホンの組み合わせが不可欠でした。初代「ウォークマン」には、約45グラムの新開発のポータブルヘッドホン「MDR-3L2」が付属。それまで、300~400グラムが標準的だったヘッドホンが一気に軽量小型化したのです。それは、「ウォークマン」の発売と同じくらい画期的なできごとでした。

1981年2月1日発売の「ウォークマン」2号機、WM-2。デザイン性と小型化のための設計技術が融合し、音質面も、駆動回路の改良やメタルテープ対応にするなどして、大きく向上した。ヘッドホンMDR-4L1Sや、バッテリケースが付属する。250万台を超える大ヒット商品となった。写真提供:ソニー
1981年2月1日発売の「ウォークマン」2号機、WM-2。デザイン性と小型化のための設計技術が融合し、音質面でも、駆動回路の改良やメタルテープ対応にするなどして、大きく向上した。ヘッドホンMDR-4L1Sや、バッテリケースが付属する。250万台を超える大ヒット商品となった。写真提供:ソニー

ついにヘッドホンからイヤホンへ!

    ソニーの開発陣はさらなる小型軽量のヘッドホンが必要と考え、新たなる製品の開発を進めます。そして1982年に誕生したのが、世界初のインナーイヤー型ヘッドホン「MDR-E252」です。ヘッドバンドもイヤーパッドもなく、ドライバーユニット(音の出るパーツ部分)を裸のまま耳のくぼみに引っ掛けるという装着スタイルは、とても斬新でした。また、イヤホンという言葉自体に馴染みがなく、インナーイヤー型ヘッドホンと呼ばれていたことからも、当時どれだけ画期的な存在だったかを窺い知れます。その後、「ウォークマン」とイヤホンはどちらも大人気となり、多くのメーカーが同じような製品を発売。現在のポータブルオーディオへと繋がっていくことになるのです。
    こうして、音楽鑑賞用のイヤホンの歴史がスタートしました。このあと現在までの35年あまりで、イヤホンという製品ジャンルは急速に発展していくことになります。

世界初のインナーイヤー型ヘッドホン、MDR-E-252。1982年に「N・U・D・E」シリーズの1号機として発売された。写真提供:ソニー
世界初のインナーイヤー型ヘッドホン、MDR-E-252。1982年に「N・U・D・E」シリーズの1号機として発売された。写真提供:ソニー

【筆者プロフィール】
野村ケンジ(のむら・けんじ)
ヘッドホンやカーオーディオ、ホームオーディオなどの記事をメインに、オーディオ系専門誌やモノ誌、WEB媒体などで活躍するAVライター。なかでもヘッドホン&イヤホンに関しては造詣が深く、実際に年間300モデル以上の製品を10年以上にわたって試聴し続けている。また、TBSテレビ開運音楽堂「KAIUNセレクト」コーナーにアドバイザーとしてレギュラー出演したり、レインボータウンFMの月イチ番組「かをる★のミュージックどん丼792」のコーナー・パーソナリティを務めたりするなど、幅広いメディアに渡って活躍をしている。


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