平成最後のヘッドフォン祭が開催
時代を彩った名機の開発秘話も
4月27日、28日、フジヤエービック主催の「春のヘッドフォン祭 2019」が「令和の音、聴いてみようか。」をキャッチフレーズに、東京・中野サンプラザで開催された。2日間で延べ来場者数11,000~12,000人(主催者発表)が訪れ、多くの人でにぎわった。
今回で23回目となるヘッドフォン祭は、「ご来場のお客様が新製品をいち早く体験でき、各社の製品をよりどりみどり無料で試聴できる無料展示会」という従来のテーマ通り、国内のみならず、世界中から200ブランド以上のヘッドホン、イヤホン、カスタムイヤモニ(カスタムIEM)、ヘッドホンアンプ、ポータブルプレーヤーなどのメーカーや販売業者が参加。持参のポータブルオーディオで熱心にイヤホンを試聴したり、メーカーやオーディオ仲間との交流を楽しんだりする来場者の姿が各ブースで見られた。
5つのフロアを使って、開催された「春のヘッドフォン祭 2019」。2008年に中野サンプラザで第一回が開催され、途中別会場となる時期もあったが、2014年から中野サンプラザに戻って開かれている。平成最後となった今回は、過去のヘッドフォン祭を彩ってきた名機の展示も行われた。
新製品がお披露目されるのもヘッドフォン祭の特長のひとつだ。フォステクスのブースで試聴の行列ができていたのは、国内初公開となった、次世代完全ワイヤレス・イヤホンTM2。左右で分離する完全ワイヤレスのイヤホンだが、付属のイヤホンをはずすことで、他のケーブル交換式イヤホンに付け替えて使用できる。愛用しているイヤホンがワイヤレスになる魅力は大きいだろう。
会場では多くのイベントが開催されており、普段は結婚式などに使われる6階のチャペルや宴会スペースでは、メーカーやオーディオ評論家によるトークイベントの他、アーティストや声優によるミニライブなども行われて好評を博していた。
初日には、1980年のソニー入社以来、ヘッドホンやイヤホンの開発に多くの功績を残してきた、ヘッドホンエンジニアである投野耕治(なげの・こうじ)氏による「ソニーヘッドホンの音作り40年 40 years' sound creation of Sony headphones」と題した講演がチャペルで行われた。ソニーがヘッドホンの開発に、何を大切にして、どんな音作りをしてきたかを、MDR-3やMDR-CD900ST、MDR-10Rなど数々のエポックメイキングな名機を例にしながらレクチャー。投野氏が話す明快でユーモアたっぷりの解説に、満席となった会場からは大きな笑いが起きていた。
1979年の初代ウォークマン発売時に登場した軽量小型のヘッドホン、MDR-3に搭載された23ミリのドライバーユニット(音を出力する内部回路)を、ソニーのヘッドホン開発の始祖として、あたかもカンブリア紀の生命爆発のように多様な進化を遂げ、これからもDNAとして受け継がれていくとして、締めくくられた。
ヘッドホンの歴史からはじまり、ソニーの40年にわたるヘッドホン開発史を語る投野氏。ライフスタイルや音楽、楽器の進化、プロフェッショナルの現場に応じて、さまざまなヘッドホンが作られてきた。
壇上には、ソニーのヘッドホン開発の歴史がわかる貴重な資料を展示。1979年発売のソニー、初代ウォークマンTPS-L2とMDR-3。写真右上は1982年に世界初のインナーイヤーヘッドホンとして登場した「N・U・D・E」シリーズのMDR-E252。
ヘッドホンのドライバーユニットが、どんどん小型化を続けて、イヤホンに搭載されていった進化がわかる。中央はソニーのヘッドホン開発に欠かせない、耳穴を含めた耳の形を採取した「耳型」。独特な方法で採取するため、通称「耳型職人」といわれる音響エンジニアにその技が伝承され、投野氏は2代目。
Just ear、4周年記念の年に
強力な音質コンサルタントが参加!
続いて、同会場で「Just ear 4周年記念トークショー」が開催され、ソニーJust earのプロジェクトリーダーである松尾伴大氏が登壇した。ヘッドホン祭とJust earの関係は、2014年の秋にプロトタイプや構想を会場で発表、2015年から会場で受注開始したとき以来、Just ear事業を応援してもらってきたとのこと。
この4年間、Just earの音質調整モデルは、松尾氏が音質コンサルタントとして、購入者の好みの音質に合わせる対面カウンセリングを東京ヒアリングケアセンターで行ったうえで販売されてきた。しかし、Just ear事業が拡大していくなかで、今後は、新たに2人の音質コンサルタントに加わることが発表された。ソニーの音響エンジニアのなかでも、多様な音楽ジャンルへの理解やコミュニケーション能力の高さなどを考慮して決まったという。
最初に紹介された、井出賢二氏は、ソニー入社以来、MDR-1RBT、MDR-Z7、MDR-1000Xなど30~40機種のヘッドホンの音響・音質設計に携わってきた音響エンジニア。音楽やファッション、グルメに対する造詣が深く、音楽では60、70年代のプログレッシブ・ロック、カンタベリー・ロックなどが特に好みのジャンルとのことだった。これまで自身が携わったヘッドホンのなかでは、MDR-1Rシリーズの音調整をロンドンで行った際に、観光もせずスタジオにこもり続けたことが印象に残っているという。
新しくJust earの音質コンサルタントとなった井出氏(写真左)を紹介する松尾氏(写真右)。
ソニーのカナル型イヤホンの生みの親が登場
続いて登壇したのは、ヘッドホン開発を経て、現在はワイヤレスポータブルスピーカーの音響設計リーダーを主担当としている関 英木氏。開発した代表モデルはMDR-CD3000、MDR-EX70、SRS-X99、SRS-HG10など多岐にわたる。
関氏は、前出の投野氏に続いて「耳型職人」を任された3代目(松尾氏は5代目)。また、関氏は、投野氏が1984年に製作し、開発途中となっていた9ミリサイズのドライバーユニットを元に、密閉型インナーイヤーヘッドホン「MDR-EX70」を1999年に製品化。いわば、今日ではポピュラーとなった、交換型イヤーチップを使って快適で迫力ある音が楽しめるカナル型イヤホンの生みの親といえる存在といえるだろう。
松尾氏によれば、関氏は機械や自動車を修理する達人でもあり、ソニーの過去の名機を触れられるような体験会で使われたウォークマンやヘッドホンは、関氏がほぼ修理していたという。また、関氏の好きな音楽は、松田聖子をはじめとする、編曲家・大村雅朗氏らが手掛けたような、美しくアレンジされた歌謡曲ということだった。
今後は、Just ear購入時の音質調整には、3人の音質コンサルタントから選べることになる。
左から、井出氏、関氏、松尾氏。松尾氏のトレードマークとなった白衣と重ならないように、服装を選んだという。
LiSAモデルの試聴に人気が集まったJust earブース
Just earの試聴コーナーは終日行列が続いており、特に、この日から受注開始となった、アーティストLiSAさんとのコラボレーションモデル「Just ear XJE-MH/L1SA」の試聴をするお客さんが多かった。会場には、LiSAモデルやサインが入ったCDも展示されていて注目を集めていた。ヘッドフォン祭でLiSAモデルの試聴を逃した方は、東京ヒアリングケアセンター 青山店にて8月31日まで試聴や注文ができる。LiSAさんのサイン入りCDなども展示されているので、ぜひ足を運んでみよう。
なお、次回のヘッドホン祭は、11月2日(祝)、3日(休)が予定されている。
LiSAさんのサイン入りCDやLiSAモデルが飾られたJust earブース。会場には東京ヒアリングケアセンターによる、耳型採取のコーナーも用意され、当日購入し、耳型を採るお客さんも多かったという。
東京ヒアリングケアセンター URL:https://tokyohearing.jp/
Just ear URL:https://www.sony.co.jp/Products/justear/