腎臓がカラダの健康長寿を決める! 臓器の情報ネットワークの司令塔

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【NHKスペシャル 人体(1)】(NHK)2017年10月1日放送
寿命を決めるのは『腎臓』だった!

   腎臓といえば、オシッコをつくる地味~なイメージが強いが、いま世界中の医学者が注目する臓器となっている。

   実は、腎臓が人体のネットワークの指令塔の役割を果たしていることがわかり、寿命を決めるとさえ言われているのだ。健康長寿のカギ、腎臓を大切にしよう。

  • 元気な人は腎臓も健康!
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臓器同士はメッセージを送り合っている

   番組では冒頭、腎臓のスゴイ働きを調べるため、米アリゾナ州の標高2100メートルの高地にあるフラッグスタッフを訪ねた。高地は酸素が希薄だ。ここで日本代表を目指す水泳選手たちが高地トレーニングを始めていた。初日の練習では泳ぎ終わった直後に血液中の酸素飽和度を調べると、約88%だった。90%を下回ると酸素不足で苦しくなる。ところが2週間後に測ると正常の数値(約100%)に。高地順応が起きていた。

   カラダで酸素が足りなくなると腎臓が反応し、EPO(エポ、正式にはエリスロポエチン)と呼ばれるメッセージ物質を生成し、血液を作る骨へ送る。すると骨が酸素を運ぶ赤血球をどんどん増産する。これが水泳選手の持久力の向上につながる。番組キャスターのノーベル賞学者、山中伸弥・京都大学iPS細胞研究所所長・教授がこう説明した。

山中教授「人間のカラダには、臓器同士の情報のネットワークが構築されているのです。これまでは脳や心臓がその司令塔になっていると考えられてきましたが、最近、腎臓があちこちの臓器にメッセージを送り、司令塔になっていることがわかりました。血管網がルートになり、腎臓が要として命の根幹に関するメッセージ物質を出し、カラダ全体をコントロールしているのです。たとえば、腎臓がエポを作って骨にメッセージを送らないと重度の貧血になります。また、心臓から『疲れたー』というメッセージがくると、腎臓はすぐに血液中の塩分量を減らして血圧を下げます。すると、心臓の負担が楽になるのです」

宮沢賢治「雨ニモマケズ」のような頼もしい臓器

   何やら宮沢賢治の「雨ニモマケズ」の「東ニ病気ノコドモアレバ 行ッテ看病シテヤリ 西ニツカレタ母アレバ 行ッテソノ稲ノ朿ヲ負ヒ...」を思わせる働き者の臓器だ。

   どういう仕組みで腎臓が司令塔の役目を果たしているのか。山中教授はこう説明した。

「心臓が送り出す血液の4分の1は腎臓へと送り込まれます。腎臓は血液中の塩分やカルシウム、マグネシウムやカリウムなどの様々な栄養成分を調整して血液の管理者になっています。たとえば、カリウムが多いバナナは健康に良い果物といわれます。カリウムは高血圧の予防やむくみの解消に大切な栄養素ですが、血液中のカリウムが多すぎると不整脈が起こります。その微妙な量をあちこちの臓器から情報を得て、腎臓が調節しているのです」

   「腎臓が寿命を決めている」といわれるのはこうだ。動物には決まった寿命がある。ネズミは3年、ヒツジは30年、ゾウは70年。寿命と身体の大きさはほぼ比例するが、例外の動物がいる。コウモリ30年、人間75年だ。これには血液中の「リン」の量が影響している。寿命が短い動物ほどリンの量が多い。リンが老化を加速させるからだ。リンが増えると血管の石灰化が起こり、全身の血管が固くなることが一因とされる。

   では、リンなど摂らなければいいではないかというと、そうはいかない。リンはカルシウムやマグネシウムと結合して骨や歯になる。脂肪を燃焼してエネルギーを生み出し、カラダの活動に欠かせない。欠乏すると心筋梗塞を起こし命に関わる。多すぎても少なすぎても命に関わる、非常に厄介だが、必須の栄養素だ。骨がリンの貯蔵庫になっており、その量を監視する大事な役目を担っているのが腎臓だ。

山中教授「腎臓は、骨からの『リンが足りているよ~』『リンが少なくなったよ~』というメッセージをいつも聞いて、そのつどリンを骨に送ったり、リンを回収して尿として排泄したり調節しています。腎臓はあらゆる臓器と会話しながら、自分の仕事を行なっています。だから、腎臓が不調になると寿命に関わってくるのです」

あらゆる病気の陰に腎臓の不調が隠れている?

   複雑な仕組みで全身を管理している腎臓だが、いま世界の医学界で「急性腎障害」(AKI)という言葉がインパクトを持つようになってきた。よく新聞の死亡欄で死因に「多臓器不全」という病名を聞く。多くの臓器が働かなくなって死に至る病気だが、そのほとんどが臓器ネットワークの要である腎臓の不調から起こることがわかった。また、多くの病気が腎臓の異変が原因で起こるこることも判明し、現在、先進国の入院患者の5人に1人が急性腎障害を起こしている。

   番組は、腎臓以外の病気でも腎臓をターゲットにした治療を行なっているドイツ・ライプチヒ心臓センターを訪ねた。どんな薬を飲んでも高血圧が改善しないユルゲン・ミッデンドルフさんに対し、心臓専門医のフィリップ・ルーツさんは、なんと腎臓の手術を行なった。細いカテーテルを腎臓の血管に挿入し、神経の一部を焼き切った。血圧を監視してコントロールするのも腎臓の仕事で、血圧を上げる時は「レニン」というメッセージ物質を血管に出している。最近、腎臓が不調になるとレニンの出し過ぎで高血圧になることが判明し、手術で正常化すれば下げられることがわかった。

   手術を受けたミッデンドルフさんは血圧が正常に戻り、外出を楽しめるようになった。この病院では、治療薬をストップしただけで、弱った心臓が回復した患者もいる。薬が弱った腎臓をさらに悪化させ、心臓に悪影響を与えていたからだ。治療チームに腎臓の専門医を参加させ、まず、心臓より腎臓を回復させる治療法をとったのだ。ルーツ医師はこう語った。

「腎臓は、あらゆる臓器と語り合いながら重要な仕事をしています。私たち医療者はやっと最近、そのことに気づきました。急性腎障害は世界中の医療現場で問題になっています。少し治療を変えるだけで、助かる可能性がある患者が毎年大量になくなっています。私たちの病院では、常に腎臓を意識することが多くの命を救うことにつながるという考えで、様々な病気の治療を進めています」

   番組の最後で山中教授と、もう1人のキャスターのタモリさんが話し合った。

山中教授が「腎臓のためには、よぶんな薬は飲まないほうがよいこともあります」
タモリさん「よく胃に優しいというが、腎臓に優しいは聞いたことがないね」
山中教授「胃は痛いと悲鳴を上げますが、腎臓は我慢してなかなか声をあげません。大事なことをよく『肝心』と書きますが、昔は『肝腎』と書いていたのです。それほど腎臓はカラダの中心になる大事な臓器です」
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