うつ病になる大きな原因の1つに社会的なストレスがある。静岡県立大学と国立遺伝学研究所の研究チームは、マウスを使った実験で社会的な順位によるストレスがうつ状態を引き起こすメカニズムを突きとめた。
脳が「癒しのホルモン」のセロトニンを受け付けなくなるのだ。研究成果は英科学誌「Scientific Reports」(電子版)の2017年8月1日号に発表された。
順位の低いマウスほど「うつ」になった
国立遺伝学研究所の発表資料によると、うつ病の発症の多くには生活環境によるストレスが関わっている、その中でも「社会的ストレス」は対応が難しいという。身内の不幸や家庭問題などの個人的な事情と違い、社会生活全般が関わるからだ。そこで、社会的ストレスが脳に与える影響を明らかにするため、マウスの「社会的順位」をモデルにすることにした。
マウスのオスは、群れの中ではゆるやかな縄張りを持ち、強いオスから弱いオスまで「社会的順位」を作る。弱いオスは強いオスが近づいてくると、プルプルと震える不安行動をとる。同じケージ内に4匹のオスを入れ、目印をつけて個体識別をして行動を観察した。しばらくすると、順位ができた。さらに観察すると、順位の低いオスは順位の高いオスに対し、不安行動に加えケージの隅に隠れてじっとする、うつ様の行動をとることを確認した。
4匹の脳神経組織を調べると、順位が低くなるにつれ、うつ病との関連性が示されている脳内のセロトニン受容体の機能が低下していることがわかった。セロトニンは「癒しホルモン」とか「幸せホルモン」と呼ばれるホルモンで、これが多く分泌されるとストレスが解消し、気持ちが和らいでくる。セロトニン受容体は、このセロトニンを受け取り神経に伝える役割がある。その機能が低下すると、ストレスが解消されない状態が続くことになる。