昔から「寝る子は育つ。かむ子も育つ」とよく言われたが、成長期によくかむと、頭のいい子に育つという研究を東京医科歯科大学のチームがまとめ、歯科専門誌「Journal of Dental Research」(電子版)の2017年6月16日号に発表した。
マウスの実験だが、よくエサをかんだマウスは記憶・学習能力をつかさどる脳の海馬が発達し、記憶力テストの成績が、かまないマウスより約30%よかったという。子どもには小さい時からよくかむ習慣をつけた方がよさそうだ。
よくかんだマウスは記憶力が30%向上した
同大学の発表資料によると、近年やわらかな加工食品が普及し、子どものかむ回数が減っている。このため、あごの骨とかむ筋肉(咀嚼筋=そしゃくきん)の発達が遅れ、学習能力に悪影響を及ぼしているという報告がある。また、高齢者が歯を失ってかむ回数が減ると、認知症のリスクが高まる研究もある。そこで、実際にマウスを使って、かむ回数が減ると脳の発達にどのような悪影響を与えるか調べた。
実験では、マウスに離乳期から成長期にかけて粉末のエサを与えるグループと、固形のエサを与えるグループの2つにわけ、記憶・学習能力のテストを行なった。固形食のマウスはよくかみ、あごの骨と咀嚼筋がよく発達したが、粉末食のマウスは丸飲みしたため、あごの骨と咀嚼筋の発達が不十分だった。
マウスが成長すると、明るい箱と暗い箱を並べた部屋に入れる実験をした。マウスは明るい場所に置かれると不安になり、すぐ暗い箱に入る。暗い箱の床に電流を流しマウスに恐怖感を与えた。恐怖を学習すると、マウスは暗い箱に入るのをためらうようになる。しかし、粉末食マウスは記憶力が低下し、電気ショックの恐怖を忘れて、早く暗い箱に入ってしまう。両方のマウスが暗い箱に入るまでの時間を測り、記憶力の差を調べると、固形食マウスは平均約230秒、粉末食マウスは約160秒。固形食マウスの方が約30%成績はよかった。
また、両方のマウスの海馬の神経組織を分析した。海馬は知覚・記憶・学習・思考・判断など認知機能全般をつかさどる重要なところだ。固形食マウスの方が明らかに神経組織をつなぐシナプスや神経活動の指標になる細胞の数が多かった。海馬がよく発達していたのだ。一方、粉末食マウスは海馬の発達が未熟なため、記憶力が低下したと考えられる。
研究チームはこうコメントしている。
「食べ物をよくかむと咀嚼筋が活発に動き、脳神経を刺激して発達させ、記憶力や学習機能が向上すると思われます。しかし、なぜそうなるのかという分子メカニズムはわかっておりません。今後はこのメカニズムを解明することが重要な課題です」