高級魚の天然フグが食べられなくなる、そんな日が将来本当にやって来るかもしれない。
食用の「ゴマフグ」と「ショウサイフグ」の交雑種が、太平洋沖で増加していることが、水産研究・教育機構水産大学校(山口県下関市)の高橋洋准教授の研究で明らかになった。交雑種の場合、「親」にあたるゴマフグやショウサイフグと同じ場所に毒があるとは言い切れない。今後さらにこうした雑種が増えて、ゴマフグやショウサイフグが絶滅する最悪のシナリオも考えられる。
地球温暖化で分布域が変化か
水産研究・教育機構が2017年5月24日に発表した資料によると、高橋准教授は2012~14年にかけて岩手、福島、茨城県の太平洋沖で水揚げした252匹のフグの遺伝子を調べた。その結果、ゴマフグとショウサイフグの雑種149匹を確認したという。このうち「雑種第一世代」は131匹、残りは雑種第一世代と純粋なゴマフグ、またはショウサイフグと再度交雑したものだった。雑種同士による「第二世代」は見つからなかった。
ゴマフグは本来、日本海が生息域のため、太平洋沖でショウサイフグとの雑種が見つかるはずはない。だが、発表資料では「近年、地球温暖化などの海洋環境の急激な変化により、海産魚の分布域の変化やそれに伴う種間交雑の進行が世界各地で報告」されていると指摘した。ゴマフグが日本海を北上し、津軽海峡を越えて太平洋側に入り、ショウサイフグとの雑種が生まれた可能性がある。
フグは毒が最も心配なのは、言うまでもない。ゴマフグとショウサイフグは、筋肉と精巣(白子)はいずれも食用だが、皮は危険だ。高橋准教授は、5月29日放送の「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日系)で、雑種は「親」と同じ場所に毒があるとは限らず、毒がどこにあるか分からないと説明した。
しかも、雑種の見分け方は簡単ではない。ゴマフグは背と腹にトゲがあり、尻ビレが鮮やかな黄色なのに対して、ショウサイフグは背と腹がツルツル、尻ビレは白っぽい。ところが雑種は、両方の特徴を備えていたり、どちらか一方に似ていたりとさまざまだ。番組で紹介されたフグを扱う水産加工業者は、長年の経験と熟練技で手際よくフグを選別しながら、少しでも怪しいというものは絶対に流通させないとした。市場に出回る確率は極めてゼロに近いという。
種類が不明なフグは釣っても「確実に排除」を
厚生労働省の「食中毒統計資料」によると、2016年のフグによる食中毒は全国で17件、31人の患者数が出たが、死者はゼロだった。ただし過去10年間の記録では、9人が死亡している。なお東京都の場合、過去5年間はフグによる食中毒は報告されていない。
では、雑種フグによる食中毒はこれまで発生しているか。厚生労働省生活衛生・食品安全部監視安全課水産安全係に取材すると、フグの種類ごとに食中毒の統計をとっていないため、雑種フグでの被害についても記録がないとのことだ。そこで、自分で釣り上げた魚がゴマフグかショウサイフグか見分けがつかなかった際の対処法を聞いた。
厚労省(当時は厚生省)の1983年12月2日付「フグの衛生確保について(局長通知)」では、「種類不明のフグ」については、魚体すべてが有毒なフグと同様に「確実に排除する」よう示している。雑種フグも、種類不明フグと考えてよい。一方で、雑種フグについてはまだ分からないことが多い。水産安全係の担当者は、今回の高橋准教授の研究発表を踏まえて「現在情報収集している段階で、今後適切な対応を取っていく」と話した。
実は、ゴマフグとショウサイフグの組み合わせ以外にも、雑種フグは確認されている。山口県は2013年5月、瀬戸内海で「鑑別が困難な中間種フグの漁獲情報が複数報告されています」と注意喚起を出した。2011年5月には、同県の日本海側で、トラフグとマフグの両方の特徴が確認できる雑種が発見された。こうした雑種は、「異種のフグ類が交雑して生まれ、その特徴には個体差があるため、見た目だけで可食部を判断することは危険です」としている。