日本で飼われている犬の数は2015年現在、約1035匹(日本ペットフード協会調べ)。猫の数の約996万匹より多いが、年々数を減らし、増える一方の猫に比べ人気の面では追い抜かれそうだ。
しかし、こと「健康面」では人間への貢献は猫にまさっている。「犬の散歩」が健康に非常にいい効果を与えている研究が相次いでいる。
ダイエット効果に加え、医師にかかる回数が減る
最近、犬の散歩が高齢者の運動量を増やしダイエット効果を上げ、医師にかかる回数を減らすという、うれしい研究をまとめたのは米マイアミ大学のアンジェラ・カール助教授。2016年3月21日付の米老年学誌「Gerontologist」(電子版)に発表した。
カール助教授は、過去の退職者健康調査の中から人種、経済状態など全米の状況を反映する平均的な高齢男女771人を対象に選び、健康データを分析した。そのうち3割強の271人が犬を飼っていた。この271人に改めて「犬を友人と考えているか」など、犬との関係を詳しく聞き、散歩する時間や歩行速度などを調べ、残りの犬を飼っていない500人と健康状態を比較した。
その結果、次のことがわかった。
(1)犬を散歩させている人と散歩させていない人との間で、がんや心臓病、糖尿病の発症率の違いなど、病気全般の直接的関連は見られなかった。
(2)しかし、犬を散歩させている人は散歩させていない人に比べ、中~高程度の運動量が多く、肥満度を示す体格指数(BMI)が明らかに低かった。
(3)犬を散歩させている人は、体の障害など日常活動で不自由さを訴える割合が低く、医師にかかる回数が少なかった。
(4)犬を散歩させている人は、散歩中に知り合った他の飼い主と友だちになるなど、交遊関係が広かった。
つまり、犬と散歩するおかげで、より健康的な生活を送っているわけだ。
そこに犬がいるだけで「幸せ」になれる?
「犬の散歩」にはリラックス効果もある。2005年に北海道の酪農学園大学がこんな実験を行なった。健康な高齢男女13人(平均年齢68歳)に3日間、毎日30分の犬の散歩をしてもらい、自律神経の状態を調べた。自律神経には交感神経と副交感神経がある。交感神経は緊張している時に働き、いわば「猫が恐怖で毛を逆立てている状態」、逆に副交感神経はくつろいでいる時に働き、「猫が縁側でのどをゴロゴロ鳴らしている状態」のイメージだ。
その結果、1人で散歩した時より犬と散歩した時の方が、副交感神経の活性値が平均で約2.5倍高くなった。しかも日を追うごとに上昇し、逆に交感神経の活性値が低くなった。犬との楽しい散歩がリラックス効果を上げたわけだ。
次に、高齢女性4人(平均年齢71歳)に自律神経解析装置を装着したまま日常生活を送ってもらった。そして、自宅に犬が訪問し30分ほど一緒に過ごすと自律神経がどう変化するかを調べた。すると、面白いことに副交感神経が活性化したが、その値は犬と一緒に散歩した時より高かったという。
「散歩」という運動面だけでなく、犬と一緒にすごすこと、つまり「犬の存在」そのものがリラックス効果をもたらしているわけだ。
犬の散歩から「恋愛」が8人中1人、「結婚」したカップルも!
犬との触れ合いがいかに癒しになるかを調べた研究はほかにもある。2014年に麻布大学獣医学部が、犬の飼い主たちに30分間犬と遊んでもらい、実験の前と後に飼い主の尿に含まれるオキシトシンというホルモンの濃度を比較した。すると、犬と触れ合った直後に飼い主たちのオキシトシン濃度が上昇した。
オキシトシンは「幸せホルモン」とか「抱擁ホルモン」と呼ばれ、特に母親が赤ちゃんに授乳している時に分泌される。このホルモンが分泌されると安らかになり、他者へのいたわりの気持ちが強くなる。しかも、飼い主と触れ合った後、犬のオキシトシンも増えることがわかった。犬も幸せな気持ちになっているわけだ。
犬の散歩には、思いがけない「出会い」という効用もある。
愛犬用歩数計「わんダント」を発売している富士通は2013年、犬を飼っている20歳以上の男女1000人を対象に、インターネット上で「犬の散歩」に関するアンケート調査を行なった。その中で、「犬の散歩がきっかけになった恋愛経験があるか」を聞いてみると、12.8%が「ある」と答えた。8人に1人の割合だ。若い人ほどその傾向が強くなり、「ある」と答えた人に「どんな恋愛だったか」を聞くと、「片思い」が53.9%、「交際した」が24.2%だった。そして、その中に「犬の散歩をきっかけに恋愛結婚した」人が5.5%いたのだ。
ワンともいい話ではないか。