米国のトランプ大統領は2025年4月7日、SNSへの投稿で、日本との貿易に不均衡な面があることを指摘し、「今朝、日本の首相と話をした。彼は交渉チームを送ってくる」と述べ、課題の具体例として、自動車と農業を挙げた。しかし、農業のコメに関してはトランプ大統領が言うように関税を下げて解決するような単純な問題ではない。
米国からも輸入しているミニマム・アクセス米
4月8日午前、定例会見で記者の1人がコメ政策について江藤拓・農林水産相に質問した。 「米国からの輸入枠の拡大や関税の見直しなどで、現時点でのスタンスに変わりはないか」 江藤氏は「変わりはない」と一言だけ反応。余計な言葉を付け加えることで憶測を呼ぶことを避けたかったとみられる。
日本のコメ輸入はいま、大きく2種類の方法が採られている。一つは国家貿易としての輸入だ。国家貿易とは、政府が特定の農産物を輸入、輸出することを指す。日本ではコメと麦がその代表格だ。
コメは年間約77万トンと定められている。ガット・ウルグアイ・ラウンドで「最低限の輸入の機会を提供する」と決まったもので、1995年以降、この仕組みが30年間も継続している。ミニマム・アクセス米とも呼ばれ、米国やタイ、中国から輸入している。
輸入されるコメの多くは、加工用や飼料用に回される。主食向けはこのうち年10万トンという枠がある。日本人のコメの消費量が700万トンほどで、需給には大きな影響は与えない量だ。
もう一つが民間貿易で、その関税が1キログラムあたり341円と比較的、高額だ。これが日本のコメ市場を閉鎖的にしてきたと言われて来た。
778%の試算が今も独り歩きしている
今回、トランプ大統領は日本のコメの関税について「700%」と言い放ち、江藤農水相は「理解不能だ」と発言したが、トランプ大統領の言う「700%」はこの341円のことを指すと見られる。農水省によると、過去にこの341円の関税について、コメのある一つの価格を参考に778%と試算したことがあったという。トランプ大統領がこの数字を丸めて出してきたのではないかという推測だ。この担当者は「海外のコメの価格も国によって様々で、品種やその年によっても大きく違う」と説明する。
また、農水省の関係者は「米国の意図がわからない」と解説する。日本はすでに米国から年間2兆円規模(2023年は2兆1,225億円)の農林水産物を輸入している。小麦や大豆、牛肉などで、米 国は輸入相手国としては、中国やオーストラリアよりも多く、トップだ。「これ以上、農産物で日本に何をしろというのか。ほかの目的があるのか見極める必要がある」と話す。
9日(米国時間)になってトランプ大統領は突如、上乗せ関税を90日間、停止した。これからもトランプ関税はますます世界を翻弄するだろう。その中で日本のコメ政策が大きな焦点になってきた。これまで市場を開放せずに最小限の輸入にとどめてきたが、2024年から続くコメ不足ともあいまって農政が揺れに揺れている。日本の農業は突然、大きな岐路に立たされた。
(経済ジャーナリスト 加藤裕則)