2025年3月31日に公表された第三者委員会の調査報告書には、中居正広氏とフジテレビをめぐる一連の問題の経緯が詳述されている。中居氏を中心とする関係者の当時の発言が記載され、厳しい批判の声が相次いだ。また、経営陣の意思決定、企業風土、ガバナンスなどの問題点も浮き彫りとなっている。
ジェンダーの観点から、これらの問題には「ホモソーシャルの根深さ」が通底していると分析するのは、性的マイノリティーに関する情報を発信するライターの松岡宗嗣さんだ。男性同士の結束感を強めるために女性などの排除が利用される構造が背景にあるという。また、「これはフジテレビだけの問題ではない」とも指摘する。詳しい話を聞いた。
「男同士の絆」を意味する「ホモソーシャル」
第三者委は、中居氏と女性の問題は「『業務の延長線上』における性暴力」だったと認定した。両者には「圧倒的な権力格差」があったとし、港浩一前社長ら幹部が「プライベートな男女間のトラブル」だと即断したのは不適切だったと指摘。中居氏や女性への対応の判断が「同質性の高い壮年男性のみで行われたことに驚きを禁じ得ない」と述べた。
松岡さんは、性暴力につながる一連の経緯や経営陣の意思決定には「ホモソーシャルな構造的問題」が根底にあるとJ-CASTニュースの取材に説明する。ホモソーシャルという概念は「男同士の絆」を意味し、女性蔑視や同性愛嫌悪から成り立っていることが指摘されているという。
「報告書には、中居氏が『男同士じゃつまらんね。女性いるかな』と伝えたという箇所がありました。男性同士の関係を深めるために女性を性的にモノ化して利用する、ホモソーシャルな関係を象徴している部分だと思います」
この中居氏の発言は、女性が被害を受ける2日前に開催された「BBQの会」が行われる前のやりとりである。フジテレビ社員B氏に送ったチャットに書かれていた。松岡さんは「女性を対等な人間として捉えておらず、性的なモノとして利用する姿勢が性暴力につながっていったのではないか」と指摘する。
さらにさかのぼって21年11月ごろに行われた「スイートルームの会」でも同様の構造がみられたと、松岡さんは話す。報告書では、部屋に残った女性2人を置き去りにしたB氏の行為がセクハラにつながったと指摘している。松岡さんは「中居氏ら男性同士の絆を深めるために女性を道具のように扱い、置き去りにしていることが象徴的だ」と説明する。
「フジテレビだけの問題ではない」
ホモソーシャルな構造には「力関係の格差」がある。これは大物男性タレントと女性アナウンサー、フジテレビの意思決定層や管理職に年配の男性が多い点など、ジェンダーと立場の差がある点に現れている。こうした点は報告書でも同様の記述がある。
さらに、男性同士の関係は公的(仕事)なもので、女性との関係は恋愛であり私的(プライベート)なものという認識も生まれるという。「プライベートな男女間のトラブル」だと港前社長ら幹部が即断している。女性の被害を軽視した一因にもホモソーシャルな構造がある。
中居氏とフジテレビをめぐる一連の問題以外でも「ホモソーシャルな構造が性暴力につながるケースは多い」と、松岡さんは述べる。例えば、松本人志氏の性加害疑惑を報じた週刊文春の記事では、後輩芸人が若い女性を松本氏に「献上」しているとの内容があった。芸能界の問題のほかにも、2022年の滋賀医大生・性暴力事件でもみられたという。
「フジテレビだけではなく、メディア業界やその他の業界でもホモソーシャルな構造があると思います。男性が経営陣や管理職を占めているという企業は多く、同質的な意思決定が行われている。男同士の関係を重視し、女性を性的にモノ化し利用する環境は今なお根強く残っていて、フジテレビだけの問題ではないと思いました」
こうした構造をどう変えていけばいいのか。第三者委が「人材の多様性の確保」を提言するように、役員や上級管理職の女性比率を高めることが重要だと松岡さんも指摘する。「個人の認識を変えることは重要だが時間がかかり限界もある。仕組み自体を変えていくことで一人ひとりも変わっていくと思います」と話している。