米国車が日本で売れない本当の理由 トランプ大統領の高関税政策では絶対に解決しない

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   トランプ大統領が2025年4月2日、日本に24%の相互関税を課すと発表したが、そのなかで日本の非関税障壁を問題にしている。標的になっているのが自動車。米国メーカーのクルマが日本市場で売れないのは「米国の安全基準を日本が完全に受け入れていないからだ」などと主張している。 しかし、トランプ大統領のその主張は間違っている。

   日本で米国車が売れないのは事実だ。かつてビッグ3と呼ばれた米国メーカーのうち、日本で正規代理店を展開するのはゼネラル・モーターズ(GM)だけだ。フォードは日本から撤退して久しい。ステランティスとなった旧クライスラーも、日本で展開するブランドはジープだけとなっている。

  • 相互関税で米国車が売れないは解決するのか?(画像はXアカウント@kanteiより)
    相互関税で米国車が売れないは解決するのか?(画像はXアカウント@kanteiより)
  • Model Y(Tesla Japan合同会社プレスリリースより)
    Model Y(Tesla Japan合同会社プレスリリースより)
  • 相互関税で米国車が売れないは解決するのか?(画像はXアカウント@kanteiより)
  • Model Y(Tesla Japan合同会社プレスリリースより)

「アメ車が左ハンドルだけ」は大昔の話

   かつてアメ車は「右ハンドル車を日本に輸出しないので売れない」と、日本ではもっともらしく、ささやかれた。

   2014年4月、来日したオバマ米大統領(当時)が安倍晋三首相(当時)に招かれ、東京・銀座のすし屋のカウンター席に並んだ。するとオバマ氏が「ここに来るまでの間、GMやフォードのクルマを全く見なかった。日本市場が閉鎖的だからじゃないか」と、真顔で言ったというのは有名な話だ。

   これに対して、安倍氏は「ドイツのBMWやメルセデス・ベンツはたくさん走っている。欧州は日本市場に合わせて右ハンドル車を造るなど努力しているが、米国はしていない」とかわしたという。安倍氏は2019年5月に来日したトランプ大統領にも同様の発言をしている。

   しかし実際には、アメ車に右ハンドル車は過去も現在も存在する。GMはこれまで左ハンドルだった高級スポーツカー「シボレーコルベット」の右ハンドル車を2020年1月に初めて日本に輸出した。最新の電気自動車(EV)「キャデラック・リリック」にも右ハンドル車を用意している。アメ車が左ハンドルだけというのは、大昔の話だ。

大きすぎるから売れないとも言われるが

   「アメ車は大きすぎるから売れない」という「神話」もある。これも右ハンドルと同様、もはや根拠にならない。GMが日本車と同サイズの世界戦略車を1996年に日本市場に投入しても、まったくヒットしなかった。

   それは日米貿易摩擦の解消に向け、GMが鳴り物入りで日本に輸出した右ハンドルの小型セダン「シボレー・キャバリエ」だ。キャバリエのCMにはアメ車好きで知られる所ジョージ氏が登場。トヨタ自動車が正規ディーラーで販売するなど、破格の待遇だったが、鳴かず飛ばず、2000年には撤退に追い込まれた。

ドイツ車は「高性能・高品質」対して米国車は?

   アメ車が日本で売れない理由は何なのか。

   一言でいえば、日本のユーザーがアメ車を選ぶ積極的な理由が見つからないからだ。BMWやメルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲン(VW)、アウディー、ポルシェといったドイツ車がもつ「高性能・高品質」といった先進的なイメージに対して、アメ車は大味で先進的なイメージにも欠ける。敢えて外国車を選ぶクルマ好き日本人の嗜好に合わないのだろう。

   もちろん、古典的なアメ車には魅力もある。6.2リッターのV型8気筒エンジンのシボレーコルベットなどを走らせると、そのサウンドといい、迫力といい、古き良きアメ車を感じる。しかし、日本でそれを理解できるのは、一部の熱心なマニアに限られるのだろう。標準タイプのコルベットのエンジンが未だに時代遅れのOHVだというのも、日本のクルマ好きなら失望するだろう。

テスラだけは例外、人気がある

   日本で売れているアメ車もある。それはイーロン・マスク氏が率いるテスラだ。東京・青山などの都心では、米国ニューヨーク並みに多くのテスラが走っている。1980年代に日本でBMWがモテはやされた頃、BMWは「六本木のカローラ」などと揶揄されたが、テスラはまさに今、その状態となっている。

   テスラは世界のEVの先端を走っている。サイズも一般的なアメ車ほど大きくない。日産リーフなど日本のEVにない先進的な機能を備えている。実際にテスラ・モデル3やモデルYのステアリングを握ると、スポーツカー顔負けの動力性能と操縦性に驚く。EVの未熟さ、使いにくさもあるが、テスラはEVの魅力を見事に引き出している。テスラのオーナーはテスラに乗ることに「優越感」を感じることだろう。

   要するに、テスラはその先進性や高性能ゆえに、従来の自動車メーカーと異なるブランド力を日本に限らず、世界各国で確立しているのだ。

テスラに不買運動、その座は揺らぐのか?

   ところが、トランプ政権で要職を務めるイーロン・マスク氏の政治的な言動から、米欧ではテスラの不買運動が広がっている。テスラが2025年4月2日に発表した25年1~3月期の世界販売台数は前年同期比13%減の33万6681台となった。

   トランプ政権が仕掛けた相互関税は世界で波紋を広げており、テスラといえども安泰でない。米国は日本の非関税障壁として、自動車分野では安全基準のほか、日本のEVの急速充電方式「CHAdeMO(チャデモ)」をやり玉にあげている。しかし、実際に日本でアメ車が売れないのは、これらの指摘とは別次元の理由からだと私は考える。

(ジャーナリスト 岩城諒 )

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