「大事な従業員に辞められちゃった......。もう会社やっていけない!」
こんな「従業員退職型」の倒産が過去最多に達していることが、帝国データバンクが2025年3月9日に発表した調査「『従業員退職型』の倒産動向」でわかった。
特に最先端のIT産業などサービス業界に多い。いったい、どういうわけか。調査担当者に聞いた。
「待遇改善をしないことへのリスク」が高まる
人手不足が深刻となるなか、従業員を自社につなぎとめることができずに、経営破たんするケースが急増している。2024年に判明した人手不足倒産342件のうち、従業員や経営幹部などの退職が直接・間接的に起因した「従業員退職型」の倒産が87件判明した【図表1】。
多くの産業で人手不足感がピークに達した2019年(71件)を上回り、集計可能な2013年以降で最多を大幅更新した。業種別にみると、最も多いのが「サービス業」(31件)で全体の35.6%を占めた【図表2】。特に多いのがソフトウェア開発などIT産業のほか、人材派遣会社、美容室、老人福祉施設など、いずれも人材の定着率が他産業に比べて低い業種。
次に多いのが「建設業」(18件)で、設計者や施工監理者など、業務遂行に不可欠な資格を持つ従業員が退職したため、事業運営が困難になった企業が目立つ。また、「製造業」や「運輸・通信業」でも初めて年間10件を超えた。工場作業員やドライバーの退職で事業がままならなくなったケースが相次いだ。
帝国データバンクではこう分析している。
「長期化する物価上昇に苦慮する従業員から賃上げを求める声が強まっている。しかし、収益力が乏しく『無い袖は振れない』中小企業も多く、賃上げに対する対応の二極化が進んでいる。待遇改善に消極的な経営に嫌気がさした役員や従業員が退職するなど、『待遇改善をしないことへのリスク』が中小企業を中心に高まっている。
転職市場を通じて賃上げによって良い人材を高給で囲う動きが広がるなか、満足に賃上げされないことを理由に従業員が辞めて経営が行き詰まる『賃上げ難倒産』が、2025年に増加する可能性が高まっている」