家族同様の犬や猫などのペットを診る動物病院(獣医業)の倒産が増えている。
東京商工リサーチが2025年3月23日に発表した調査「動物病院の倒産増加、大手と地域密着型の競争激化」によると、これまで年間1、2件程度だった倒産が、2024年度は5件になり、2005年以降最多になった。
いったい、動物病院に何が起こっているのか。調査担当者に聞いた。
診察、医療からホスピスまで、人と同じ支援のニーズがある
東京商工リサーチの調査によると、動物病院(獣医業)は倒産が極端に少なく、都市部でも地方でも長らく超安定経営を続けていた。
倒産件数「ゼロ」の年が続き、あっても1、2件程度。それが2024年度(4~3月)に様相が一変した。2025年2月までに5件を数え、休廃業・解散も2013年度以降では最多の46件に達した【図表1】。
背景には、病院乱立と獣医師不足、高度医療に対応する高額機器への投資負担などがある。農林水産省の「動物診療施設の開設届出数、獣医師数」によると、届出数は右肩上がりで増え続けている。一方で、獣医師数は年々減少している【図表2】。
ただ、新設法人数はコロナ禍中のペットブームを背景に、2021年は262件と最多を更新したが、2022年226件、2023年162件と推移し、一転して急減した。これは、独立などの新たな開院が減っても、大手の病院展開が押し上げているようだ。東京商工リサーチでは、こう分析している。
「動物病院の生き残りには、診察、医療からホスピスまで、人と同じような支援のニーズもある。高額な医療機器を揃え、高度化医療に取り組む動物病院と人のつながりを生かした動物病院――。ペットを舞台にした生存競争が静かに激化している」
ドッグランやアニマルセラピーで巻き返しを図ったが...
J‐CASTニュースBiz編集部は、調査を行なった東京商工リサーチ情報部の担当者の話を聞いた。
――動物病院の倒産が2023年まではほぼ年間1、2件と、1つの業種としては珍しいくらい安定していたのはなぜでしょうか。やはり、ペットブームが背景にあるのでしょうか。
担当者 ペットの動物病院での治療が浸透し、根強い需要で比較的、安定した経営を続けることが可能だったと考えます。また、最新鋭の高額な医療機器をそろえている動物病院も当時は少なく、ペットの飼い主も症状に応じて、かかりつけ医とすみ分けており、過当競争に陥っていなかった点も大きいと思います。
――ところが、2024年に様相が一変した理由は何でしょうか。倒産した病院のケースを具体的に説明してください。
担当者 ペットブームが落ち着き、新規開業が増加したうえ、医療機器への投資負担など、動物病院同士の競争が激化しております。
競争激化からドッグランやアニマルセラピーなどの多角経営を始め、巻き返しを図ったが、業績回復に結びつかず、資金繰りが悪化し破産した関東の動物病院がありました。また、個人事業の動物病院の倒産も目立ちました。いずれも小規模運営でしたが、売上不振で破産するなど、競争が激化している様子がみられました。
ペットの高齢化で治療の難易度が上がり、淘汰に拍車
――ペット関連のニュースを見ると、日本の流通大手系の動物病院や、外資系の巨大動物病院グループなどが盛んにM&Aを行って傘下の動物病院を増やしているとされていますが。
担当者 個別の社名は控えたいのですが、大手資本系列の動物病院は、新規開業やM&Aで事業を拡大しているところも目立ってきました。
――東京商工リサーチの調査では、人間のクリニックの倒産が過去20年で最多という報告があります。後継者難や高額な医療機器のコスト増などが大きな要因とされていますが、動物病院にも同じなのでしょうか。動物病院が今後、生き残るためには何が一番大切と考えていますか。
担当者 ペットの高齢化とともに、治療の難易度も上がってきています。獣医のなかでもより専門性が高くなり、高度な医療機器を揃えている動物病院も増え、結果として競争が激化しています。
小さな動物病院は、資金的にも脆弱で、高度治療の知識や高額な設備機器を導入する資金力も乏しく、そうした動物病院と張り合うと淘汰される可能性が高まっています。むしろ地域密着型で、飼い主の信頼を高めながら、固定利用者の確保が生き残りの鍵だと思います。
飼い主も「かかりつけ医」のリスクに注意を
――今回の調査で特に強調しておきたいことがありますか。
担当者 動物病院は倒産自体が少ないのですが、一般の病院と同様に競争が激化しており、獣医の力量、人あたり、設備が問われる時代を迎えています。飼い主さんも、普段、利用している動物病院が、ある日突然、休・廃業や倒産するリスクが少しずつ高まっていることに注意が必要になっています。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)