若者の約半数がSNSで気軽に本音を言えることが、NTTドコモの研究機関、モバイル社会研究所(東京都千代田区)が2025年3月13日に発表した調査「SNSでは気軽に本音が言える:15~24歳の約半数」でわかった。
また、「SNSでの発言内容を気にするが面倒だ」と思う若者も6~7割に達する。
SNSにはメリットとデメリットがある。若者たちのこうした意識の背景にあるものは。調査した専門家に聞いた。
気にするのが面倒なのは、XよりInstagramのほうが高い
モバイル社会研究所の調査(2024年2月)は全国の15歳~59歳の男女3936人が対象。調査におけるSNS利用者は、X、Instagram、Facebook、TikTokのいずれかを利用している人を指す。
まず、「SNSでは気軽に本音が言えると思うか」を聞くと、全体の約4割が「気軽に本音が言えると思う」と答えた。若い人ほどそう思う割合が高く、男女とも15~24歳は約半数に達した。40~59歳では男女とも3割程度だった【図表1】。
加えて、気軽に本音が言えると思うかどうかによってSNSの発信状況が変わるのかを聞いた。その結果、気軽に本音が言えると思うほうが発信する割合が高かった。その差は、Xでは全体で23ポイント、Instagramでは全体で18ポイントの差がみられた【図表2】【図表3】。
ところで、SNSでは発信内容のトラブルがよく問題になる。そこで、SNSで発信しようとする場合に、「トラブルにならない文面を考えたり、写真の写り映えを気にしたりするなど、発信内容を気にするのが面倒だ」と思うかどうかを聞いた。その結果、全体の7割弱が発信内容を気にするのが面倒だと思うと回答。とくに女性のほうがそう思う割合が高く、どの年代も男性は6割強、女性は7割強が面倒だと思っていた【図表4】。
気にするのが面倒だと思う割合は、XよりInstagramのほうが高かった。ただし、15~24歳のInstagramユーザーでは、面倒だと思うかどうかによって発信率に差がみられず、こうした意識が発信率に関係していないことがわかった。
「SNSでの気軽な本音」にはポジティブ、ネガティブの両面がある
この結果をどう見たらよいのか。J‐CASTニュースBiz編集部は、調査を担当したモバイル社会研究所の小島誠也さんに話を聞いた。
――SNSが引き起こすデメリットして、ネットいじめ、誹謗中傷、フェイク情報、若者が他者と自分を比較して自己肯定感の低下を招くなどがあげられます。
一方、メリットとしては、若者たちが情報収集をして自由に自己表現やコミュニケーションをしたり、社会運動を行ったり、いじめに関しても学校・家族以外に相談先を見つけられたりするなどがあげられます。
専門家として、「SNSでは気軽に本音を言える」割合が15~24歳で約半数という結果を、メリット&デメリットの面からみてどう評価しますか。SNSのいい面を生かしているとポジティブに評価しますか、それとも悪い面を考えると懸念されるとネガティブに評価しますか。
小島誠也さん 今回の結果については、ポジティブな側面とネガティブな側面の両面を考慮する必要があります。
ポジティブな側面として、SNSは若者にとって自分の意見や感情を表現するための空間を提供しているといえます。これにより、コミュニケーションが活性化し、個々のアイデンティティの形成や自己表現が促進されることは重要なメリットです。
一方で、SNS上での気軽な発言は、誤解を招いたり、ネガティブなフィードバックを受けたりするリスクもあります。また、SNS特有の匿名性から、本音での発言が過激になる懸念もあります。そのため、ポジティブ・ネガティブを一概に判断することはできないかと考えます。
――若い世代に比べ、年配者になるほど「本音」を言える割合が減るのはネガティブな面を考えているからでしょうか。
小島誠也さん 年配者になるほど「本音」を言える割合が減る理由の一つには、若者世代よりSNSを使い慣れていないことが挙げられます。若者は、SNSを自然に使いこなすスキルを持っており、SNSを通じて自己表現を行うことに対して心理的な抵抗が少なく、気軽に本音を言える傾向があります。
一方、年配者はSNSの使い方や文化に対する理解が若者よりも低い傾向があり、「本音」を言うことに対する心理的障壁が高い傾向があると考えられます。
SNSの発信内容が本音かどうか、気にしても仕方がない
――なるほど。「気軽に本音を言える」割合が、XよりInstagramのほうが高いのはどういう理由からでしょうか。
小島誠也さん Instagramがビジュアルコンテンツを重視しているためであると考えられます。写真や動画を使ったほうが表現は容易になるので、発信に対するハードルが低く、本音を語りやすい環境が整っています。
一方で、Xはテキストベースのプラットフォームであり、言葉選びや表現に対するハードルが高くなることが、気軽さに影響を与えていると考えられます。
――ところで、「発信内容を気にするのが面倒だ」と思う人が7割近くいることは、冒頭に述べたSNSのメリット&デメリットの面からみてどう評価したらよいのでしょうか。
小島誠也さん ポジティブな側面としては、多くの人がSNSで発信することに関して、SNSを見るであろう他者への配慮を意識しているということです。自由な表現が可能だからと言って、個人情報の流出や炎上につながるような内容の発信にはリスクがあるため、そうしたことが利用者の意識の中にある結果であると考えられます。
一方で、ネガティブな側面として、「面倒」という感覚を負担に感じて、SNS利用自体が億劫になる場合や、他者に配慮しない発信をしてしまうというようなことも考えられます。このような状況は、SNSが本来持つ利便性や楽しさを損なう要因になったり、思わぬトラブルとなったりする可能性があります。
――それにしても、「SNSでは気軽に本音」を言える割合には世代間の差があるのに、「SNSでの発信内容を気にするのが面倒だ」とする割合に世代間の差がまったくないのはなぜですか。また、面倒だとする割合がどの世代も男性より女性のほうが高いことも不思議です。
小島誠也さん 「気軽に本音が言えるかどうか」についてはSNSへの慣れが影響し、若年層のほうが本音を言えると感じていると考えらます。一方で、「発信内容を気にするのが面倒」という点については、発信内容が本音かどうかは関係がないものです。
年齢によらず多くの人がSNSの特性を理解しているため、この意識については年齢差がないものであると考えられます。
また、面倒だと感じやすい女性の割合が高いのは、社会的な圧力を強く感じやすいことや、自己表現と他者への配慮とのバランスを取ることにストレスを感じる人が相対的に多いためであると考えられます。
自己表現と他者への配慮を両立させながら、SNSの有効活用を
――今回の調査で特に強調しておきたいことがありますか。
小島誠也さん SNSがもたらす良い面と悪い面の両方を理解し、適切に利用していただきたく思います。特に若者には、自分の意見や感情を表現する自由を感じている一方で、それに伴うリスクも認識してほしいと思います。
自己表現と他者への配慮を両立させながら、SNSを有意義に活用いただければ幸いです。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)