「女性ライバー刺殺」居場所すぐ分かるリスク負ってまで 「山手線徒歩一周」リアルタイム中継した事情

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   ライブ配信アプリ「ふわっち」の人気配信者「最上あい」こと佐藤愛里さん(22)が2025年3月11日、東京・高田馬場の路上で刺殺された事件。

   逮捕された高野健一容疑者(42)の供述が明らかになるにつれ、配信者と視聴者の関係から始まった特有の事情もかいま見えてくる。

  • 配信者と視聴者の距離感が問われる
    配信者と視聴者の距離感が問われる
  • 東京・高田馬場
    東京・高田馬場
  • 配信者と視聴者の距離感が問われる
  • 東京・高田馬場

配信者の事情──「競争」の果てに「稼げる」システム

   「ふわっち」などのライブ配信アプリは、配信も視聴も無料、スマホひとつで配信を始められる身軽さと、新型コロナ禍における巣ごもり需要のなかで、新たな「推し活」の場として急速にシェアをのばした。

   佐藤さんのような配信者は「ライバー」と呼ばれるが、その人気のバロメーターとなるのは、視聴者数や「いいね」の数だけに限らない。

   リスナーと呼ばれる視聴者はアイテムを購入し、いいと思った配信者にプレゼントする。この獲得アイテムのポイント数によって、配信者ランキングが変化する。また配信の盛り上がり度合いに応じたグレードを示すシステムも存在し、それに応じて出られる「イベント」も変わってくる。

   「イベント」とは、たとえば広告などへの出演権、自身のグッズ作成権などをかけ、不定期に起こる期間限定のランキング行事だ。その期間内に得たポイント数によって、指定の権利が得られる。

   獲得したポイントは、最高で5割ほどが配信者たちに還元され、換金もできる。人気者になると、配信の収入だけで生活をする「専業ライバー」となる配信者もいる。

   こうした「競争」の果てに「稼げる」システムが、配信者のモチベーションをアップさせる要因となっているのだ。

視聴者の事情──応援から憎しみに転化する「反転アンチ」

   そんな配信者を支えるのが、視聴者である。

   今回被害者となった佐藤さんの場合、「ふわっち」のグレードは最上位で、イベント入賞も多い。だが、フォロワー数は約2600人と極端に多いほうではない。つまり、比較的少数の熱狂的な支持者たちが彼女の人気を支えていたことになる。報道によると、高野容疑者も「多いときには月10万円、投げ銭をしていた」と供述しているようだ。

   だが、こうした視聴者の熱狂は、何らかの事情で憎しみに転化してしまう場合もある。

   これらは「反転アンチ」と呼ばれ、配信中に誹謗中傷のコメントを書き込んだりするなどの事例がある。配信中であればプラットフォーム側で対処できるが、配信外となるとそうもいかない。

   2022年、女性配信者が視聴者の男に自宅で殺害される事件が起きた。一度だけ配信者に直接会ったという被告は、地裁の一審において「彼女と交際しており、別れを告げられたので殺害に及んだ」と一方的に主張。遺族側の陳述と食い違ったまま、被告には懲役17年の求刑が言い渡された。

   一部には配信者に恋愛感情を抱く「ガチ恋勢」という視聴者も存在するが、少なくともこのケースでは被告が視聴者の一線を越えてしまったことは確かだろう。

多くポイントを得るための企画配信の日だった

   今回の事件において、配信者と視聴者の関係はいかなるものであったのか。

   高野容疑者は佐藤さんと配信外で会うようになり、複数回にわたり200万円を超える金銭を貸したと供述。さらに、返金されぬまま連絡が取れなくなったため、山手線徒歩一周を行うと公言していたこの日に犯行に及んだ、と報道されている。

   もし供述が事実だとすれば、佐藤さんにとって、容疑者に恨みを持たれているうえで、現在地が容易に特定できるリアルタイム配信は非常に危険な行動だったはずだ。

   しかし、徒歩配信は行われた。その理由は本人にしかわからないが、人気配信者ゆえの事情もあったことは想像できる。なぜなら佐藤さんが被害に遭った日は、彼女が参加していたイベントの最終日であったからである。

   配信者として人気を保つためには、イベントに勝ち抜くためのさまざまな仕掛けをしていかなければならない。佐藤さんは前日から「山手線徒歩一周」を行うことを公言し、視聴者からプレゼントされるポイントに応じてサイコロを振る......少しでも多くポイントを得るための企画配信の日だったのだ。

   イベント中、ポイントを稼ぐため、大食いやバンジーなどのチャレンジ企画配信は当たり前のように行われる。なかでも、山手線徒歩一周企画は恒例の企画だった。

   サイコロのような仕掛けを用意したり、配信を観た視聴者が直接会いに来る「リア凸」といったハプニングが起こったりすることでランダム性が生まれ、見ている側はいつもと違った配信を楽しめる。だが、それが今回は誰も楽しむことのできない、悪夢の配信となってしまった。

   今回のような事件は、プラットフォーム側の対策だけでは回避できるものではないだろう。利用者側──配信者も視聴者も、それぞれの距離の取り方を考えて行動し、平和な「推し活」の場を構築していくほかない。

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