多くポイントを得るための企画配信の日だった
今回の事件において、配信者と視聴者の関係はいかなるものであったのか。
高野容疑者は佐藤さんと配信外で会うようになり、複数回にわたり200万円を超える金銭を貸したと供述。さらに、返金されぬまま連絡が取れなくなったため、山手線徒歩一周を行うと公言していたこの日に犯行に及んだ、と報道されている。
もし供述が事実だとすれば、佐藤さんにとって、容疑者に恨みを持たれているうえで、現在地が容易に特定できるリアルタイム配信は非常に危険な行動だったはずだ。
しかし、徒歩配信は行われた。その理由は本人にしかわからないが、人気配信者ゆえの事情もあったことは想像できる。なぜなら佐藤さんが被害に遭った日は、彼女が参加していたイベントの最終日であったからである。
配信者として人気を保つためには、イベントに勝ち抜くためのさまざまな仕掛けをしていかなければならない。佐藤さんは前日から「山手線徒歩一周」を行うことを公言し、視聴者からプレゼントされるポイントに応じてサイコロを振る......少しでも多くポイントを得るための企画配信の日だったのだ。
イベント中、ポイントを稼ぐため、大食いやバンジーなどのチャレンジ企画配信は当たり前のように行われる。なかでも、山手線徒歩一周企画は恒例の企画だった。
サイコロのような仕掛けを用意したり、配信を観た視聴者が直接会いに来る「リア凸」といったハプニングが起こったりすることでランダム性が生まれ、見ている側はいつもと違った配信を楽しめる。だが、それが今回は誰も楽しむことのできない、悪夢の配信となってしまった。
今回のような事件は、プラットフォーム側の対策だけでは回避できるものではないだろう。利用者側──配信者も視聴者も、それぞれの距離の取り方を考えて行動し、平和な「推し活」の場を構築していくほかない。