大学生時から「老後」と「年金」の不安 給与は平均程度でよいが...就職で大切にしたいものは/マイナビ・中島英里香さん

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   大卒新入社員の初任給額が年々上がっているが、現在就活中の学生が必ずしも高額の初任給額を求めているわけではないことが、就職情報サイトのマイナビ(東京都千代田区)が2025年3月7日に発表したコラム「2026年卒新卒採用・就職活動の展望~大学生時から老後不安? 初任給アップ時代の企業選びとは~」で明らかになった。

   学生たちには、初任給の額より大切にしたいものがある。また、早くも数十年先の「老後」と「年金」に不安を抱いているという。

   学生たちは何を求め、何に悩んでいるのか。コラムをまとめたマイナビ研究員の中島英里香さんに聞いた。

  • 就活中の大学生、将来の不安は(写真はイメージ)
    就活中の大学生、将来の不安は(写真はイメージ)
  • (図表1)学生が最低限ほしいと思う初任給額(マイナビ作成)
    (図表1)学生が最低限ほしいと思う初任給額(マイナビ作成)
  • (図表2)企業選択のポイント、上位3項目の推移(マイナビ作成)
    (図表2)企業選択のポイント、上位3項目の推移(マイナビ作成)
  • (図表3)学生が感じている将来の不安(マイナビ作成)
    (図表3)学生が感じている将来の不安(マイナビ作成)
  • 中島英里香さん(本人提供)
    中島英里香さん(本人提供)
  • 就活中の大学生、将来の不安は(写真はイメージ)
  • (図表1)学生が最低限ほしいと思う初任給額(マイナビ作成)
  • (図表2)企業選択のポイント、上位3項目の推移(マイナビ作成)
  • (図表3)学生が感じている将来の不安(マイナビ作成)
  • 中島英里香さん(本人提供)

会社選びは「やりたい仕事ができる」より「安定している」が1位に

   中島英里香さんのコラムは、マイナビが行ってきた就職活動に関する2025年卒~26年卒大学生の意識、および企業側の採用動向など複数の調査をもとにしている。

   厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、大卒初任給平均は2020年卒が22万6000円であるのに対し、2023年卒は23万7300円と3年間で1万1300円上昇した。また、マイナビの企業調査でも2026年卒の学生向けに初任給の引き上げを検討している企業が半数以上ある。

   賃上げの動きが盛んな現在、学生はこの状況をどうとらえているのか。学生に最低限ほしいと思う初任給の額を聞くと、最も回答が多いのが「20~21万円未満」と、平均初任給額23万7300円より低い額だった【図表1】。

   また、26万円以上と回答した学生の割合はいずれも5%以下と、高額な初任給を求める学生は少数派と言える。平均初任給額が上昇中ではあるが、上昇ペースを上回る額を求めるわけではなく、平均的な金額であればよいという認識のようだ。

   企業選択のポイントもここ数年で様変わりした。長らく1位だった「自分のやりたい仕事ができる会社」の割合が減少、コロナ後は「安定している会社」が1位になった。また、「給与の良い会社」も増えており、企業選びが「やりたい仕事」重視から「安定・給与」重視となっている【図表2】。

   こうした志向が高まっている背景には将来の不安があるようだ。学生に将来の不安を聞くと、「老後の貯蓄が足りない」「年金がもらえないかもしれない」と、お金にまつわる不安が「結婚問題」よりも上位に並んだ。人生100年時代の遠い未来のことを今から不安を抱いているのだ【図表3】。

「ワークライフバランスを重視し、そこそこ働ければいい」

   J‐CASTニュースBiz編集部は、コラムをまとめたマイナビのキャリアリサーチLab研究員の中島英里香さんに話を聞いた。

――若手社員確保のために初任給額が年々上がり、平均額が23万7300円に達しているのに、学生が希望する最低限ほしい初任給額で一番多い回答が、それよりも2万円ほど低い「20~21万円未満」という結果が非常に不思議です。なぜ控えめなのでしょうか。

中島英里香さん 「就職先を検討する際、『初任給』の金額にどの程度こだわるか」を聞いた結果、最も多かったのは「平均的な金額であれば、ほかの条件が希望通りであることを優先する」で、約半数(47.2%)となりました。

昨今高額な初任給額を提示する企業の報道に注目が集まっているように思いますが、多くの学生は高額な給与を求めているわけではなく、給与に対しては平均程度、加えてそのほかの条件に注目しているようです。

また、前年2025年卒学生への調査ですが、「人生100年時代」に向けた今後の働き方として考えに近いものを聞いた結果では、最も多いのは「ワークライフバランスを重視して、そこそこ働ければいい」(42.8%)という結果でした。

昨今のワークライフバランスへの意識の高まりもあり、高額な初任給よりもワークライフバランスを重視したいと考える学生が多いのではないでしょうか。

――とはいえ、【図表1】をみると、26万円以上の高額を希望する学生も合計13.8%います。約7人に1人の割合になり、前年(2025年卒)の調査(5.3%、約19人に1人の割合)よりかなり増えています。ということは、必ずしも控えめになったとは言えないのではないでしょうか。

中島英里香さん 「就職先を検討する際、『初任給』の金額にどの程度こだわるか」を聞いた調査でも、「平均的な金額よりも目立って高額な初任給であることを重視する」という回答も11.8%と一定の割合があり、高額な初任給を求める学生もいることは確かです。

私がコラムの中でお伝えしたかったのは「平均的な金額であれば、ほかの条件が希望通りであることを優先する」学生が多数派であるということです。

「給与だけでは最低限の生活だけ」と副業を考える学生

――【図表2】の企業選択のポイントが驚きです。「自分がやりたい仕事(業種)ができる会社」の割合がどんどん低下、「安定している会社」がトップに躍り出ました。その理由は、ズバリ何でしょうか。

中島英里香さん 2026年卒学生はコロナ禍で大学受験を経験し、その後はウクライナ紛争や、イスラエル・パレスチナ紛争、能登半島地震、円安・物価高といった社会背景の中で学生生活を過ごした世代です。

先行き不透明で将来の予測が困難な状態である「VUCA(ブーカ)の時代」というにふさわしい時代を生きてきた彼らは、この先どうなるかわからないという不安の中で、安定志向が高まっているのではないかとみています。

――【図表3】の学生が感じている将来の不安も悲しいですね。何十年も先の「老後」と「年金」が、近未来にやってくる「結婚」より上位であることに驚いています。

中島英里香さん 「VUCAの時代」を生きてきた今の学生にとって、遠い将来は近い未来以上に何が起こるかわからない、想像できない、という感覚があるのではないかと考えています。

また、「老後2000万円問題」や「人生100年時代」といった話題を耳にする中で、長い人生を歩むことを現実的にとらえ、生活を続けるためのお金について不安が強まっていると考えられます。

実際に学生に就職後の収入と生活について聞いたところ、「就職先の給与のみで最低限の生活はできる」という回答が49.4%と最も多く、「就職先の給与のみで満足する生活が続けられそう」(36.7%)よりも10ポイント以上高い結果となりました。

学生の給与のイメージとして、生活するために必要な金額は得られるが、趣味の活動を行う・好きなものを購入するといった各個人が理想とする生活を送るために必要な金額までは得られないという認識があるのではないでしょうか。

そのためか、就職後に副業を検討すると答えた割合が66.0%となっています。

自分の不安や疑問を、採用担当者や先輩社員にどんどんぶつけよう

――こうした不安を抱えている学生を採用する企業は、新入社員に対して何を一番重視して対応する必要があると考えていますか。

中島英里香さん 将来に対する不安が強い世代であると考えられるため、学生の不安に寄り添った対応が必要だと考えています。実際に内定者辞退対策で効果があったと感じたものを企業側に聞いた結果では、一緒に働く同期や先輩社員とのコミュニケーションをとることができる「内定者懇親会(食事会等)」や「社員との座談会」など、自社を開示する取り組みが上位に挙がりました。

実際にその会社で働いている先輩の話を聞くことで、入社後の業務や生活のイメージが具体的にでき、学生の不安を取り除くことにつながるのだと考えられます。このようなことからも、企業は、学生の不安要素がなくなるまで、丁寧な対話をしていくことが必要ではないでしょうか。

――最後に就職活動の研究員として、そして人生の先輩として学生たちにエールとアドバイスをお願いします。

中島英里香さん 3月に入り、企業の採用広報活動が解禁となりました。就職活動が本格的に始まる中で、就職後に関して不安を感じる学生もいらっしゃるかもしれません。そのような際には、企業の採用担当や先輩社員の方にどんどん質問して、その不安や疑問を解消していってほしいと思います。

確認しないまま入社して、「思っていたのと違った」といったミスマッチが起こってしまうと、早期離職の原因などにつながりかねません。ご自身の納得できるファーストキャリアに出会っていただきたいと思います。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)



【プロフィール】
中島 英里香(なかしま・えりか)
株式会社マイナビ キャリアリサーチLab研究員

2016年マイナビ入社。新卒採用の求人広告営業を経て、採用管理システム担当として東日本の中小企業・大手企業の新卒採用支援や採用業務代行などを行う。現職では新卒領域の調査を担当。

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