OD(オーバードーズ)するよりSD(相談)しよう」――。こう呼びかける厚生労働省の広告動画が、2025年3月11日までに内閣府が運用するXアカウント「政府広報オンライン」から削除された。この動画はSNSで、「当事者への寄り添いがないのでは」などとして批判が出ていた。
厚労省は、「ご批判は真摯に受け止めたいと考えております」とコメントした。動画制作にあたり、専門家の監修はなかったと明かした。
自民・大空こうき衆院議員も「酷すぎる」
オーバードーズ(OD)とは、厚労省のサイトによると、かぜ薬や咳止め薬といった一般用医薬品を本来の目的ではなく、「感覚や気持ちに変化を起こすために大量に服用すること」を指す。
問題となった動画は30秒ほどで、ゆるいタッチのヒツジのキャラクターが登場し、「つらい気持ちになったなら、ODするよりSD(相談)しよう」と呼びかける。「あなたに寄り添いたい、そんな支援があります」「OD/オーバードーズは、心と体を傷つけてしまう危険な行為です」とも訴えている。クリックすると、オーバードーズの説明や相談窓口を案内する厚労省のサイトに遷移する。
この動画に、主に精神科医や若者のメンタルケアに関わる人のアカウントを中心に、「キャッチコピーが軽く感じる」「当事者への寄り添いがないのでは」などとする声が上がり、波紋を広げていた。
J-CASTニュースの取材に応じた公認心理師・臨床心理士の男性によると、ODの当事者は、誰かに助けを求めたり、相談したりするべきところを自分だけで辛さを解決しようとしてODという手段を選択する。その背景には、人よりもODの方が信頼できるという心理状態があり、過去の経験から他人を信頼できなくなり、相談に踏み出せなくなっているケースも多い。周囲が「ODはダメ」と頭ごなしに否定することは、当事者が一時的に苦しみから逃れる手段を奪ってしまうことになりかねないという。
しかし、「ODするよりSD(相談)」と呼びかけるコピーについて、X上では、オーバードーズをしてしまう行為を否定しているように見えるとの指摘も出ていた。
自民党の大空こうき衆院議員は5日にXで、「酷すぎる」とコメント。厚労省に連絡し、「広告出稿の一時停止も含め、急ぎ検討を始めてもらいました」と報告し、「当事者や支援者の実情を役所の担当者の皆さんに知っていただく研修機会の確保や、深刻化するODの問題に対する適切な広報のあり方の検討などに向けて、役所の皆さんと一緒に改善を図っていきます」と説明した。
ODは「ダメ」と押し付けないよう「柔らかめのタッチ」に
その後、11日までに政府広報オンラインはX投稿を削除した。
その理由について、11日にJ-CASTニュースの取材に応じた厚労省医薬局の担当者は、「各方面からいろいろとご指摘があり、特に当事者に近い方から批判の声もあった」ためと説明。予算を出した内閣府の政府広報室と相談のうえ対応したとした。
前出の担当者は、若者のオーバードーズについて、「非常に危険な行為」である一方、「背景には悩みを抱えているという方が多いというような実態もございます」とし、今回の広告動画は「薬に手を出す前に、まずは適切な相談窓口に相談していただきたいという趣旨」で制作したと話す。
「(オーバードーズを)『ダメ、絶対』というふうに押し付けるのもよくないので、少し柔らかめのタッチ」にしたと説明した。広告代理店がいくつか案を出した中から内閣府と相談のうえ選定、ブラッシュアップして3日に公開したという。
専門家が監修したかどうかについては、「今回のものに関しては専門家に見ていただくタイミングがなかった」とした。
今回寄せられた批判について、「ご批判があることは承知しております」とし、「ご批判は真摯に受け止めたいと考えております」とコメント。「ODをきちんと防止するための対策を取っていくことが重要ですので、そうした対策や、もしまた広報をする機会があれば、活かしていきたいと考えております」とした。
ODに関して、別の動画や広告を新たに制作することは「今のところは検討しておりません」という。