今年の桜の開花は、東北地方では4月上旬から中旬と予想されている。
東日本大震災で甚大な被害に見舞われた岩手、宮城、福島の各地では、震災後に桜をテーマにしたプロジェクトが複数立ち上がった。規模や目的はそれぞれだが、どれも桜に強いメッセージが託された。2つのプロジェクトの今を、取材した。
桜並木が示す津波到達点「それより上に逃げて」
岩手県陸前高田市の浄土寺境内に2011年11月6日、河津桜が植えられた。ここには、東日本大震災の津波が到達した最高地点がある。
「人々の記憶に残りやすく、震災を語り継ぐことができないだろうか」
岡本翔馬さんが仲間と共に導き出した答えが、桜の植樹だった。市内の津波到達地点に10メートル間隔で1万7000本を植える。桜並木が、東日本大震災で津波が届いたラインを示す。それより上に、避難してほしい――。
陸前高田は過去、何度も津波に襲われた。1896年の明治三陸地震、1933年の昭和三陸地震でも多くの犠牲を出している。先人は当時の教訓を石碑に刻んで残したが、長い年月が過ぎる中で、その教えが住民に確実に受け継がれていたとは言い難かった。
勤務先だった東京から地元にUターンしてきた岡本さんはじめ、10人のメンバーは、「震災を分かりやすく伝える」を目的にした桜の植樹を計画。2011年10月に任意団体「桜ライン311」を立ち上げた。
翌年の3月11日から植え始めよう、と話していたが、団体発足してすぐ、事はとんとん拍子に進む。神奈川県松田町から、河津桜の苗木と成木が贈られることになったのだ。当時の陸前高田市長・戸羽太氏が同町出身という縁もあった。こうして最初の植樹会は、震災から8か月足らずで実現した。岡本さんは、当時の様子をこう振り返る。
「町中がれきの山で、明日の見えない時期でした。そのなかで、目の前にある『やれること』にエネルギーを傾けて、前向きに取り組もうという熱量はすごくありました」