iPhoneに装着する前提で設計されたサードパーティー製ガジェット。これは、そう簡単に開発できるものではない。
特に、iPhoneケース型ガジェットはそれが顕著である。なぜなら、1年経てば新ナンバーが登場し、そのたびに本体サイズが変わってしまう可能性があるからだ。
2017年に海外クラウドファンディング「Kickstarter」に登場したiPhone用ケース『Eye』は、開発の遅延が「モデルチェンジについていけない」という悪循環を呼び込み、結局は出資者を裏切る形になってしまった「幻の製品」である。
テクノロジーライター大称賛の製品だったが...
Eyeの開発プロジェクトがKickstarterで公開された時、この製品を称賛した記事も多かった。
これはスマホケースであると同時に、なんとAndroid OSの端末も兼ねているという前例のない珍品だったからだ。EyeをiPhoneに装着すると、表面はiOS、裏側はAndroidというとんでもないスマホが誕生する仕組みである。
世界中のテクノロジーライターが、これを大歓迎していた。
商売柄、彼らはiPhoneとAndroid端末を常時2台持っていることが多い。iOS向けにしか配信されていないアプリ、またはAndroid向けにしか配信されていないアプリは少なくないからだ。
Eyeを装着したiPhoneを持っていれば、わざわざ2台のスマホを持ち歩く必要はない......と考えるのは自然の流れだった。
また、当時は「資金集めの新しい手段」「手っ取り早く夢を叶えるための方法」として製品開発者によるクラウドファンディングの利用が流行していた背景もある。Kickstarterでプロジェクトを公開し、世界中から巨額の出資金を得ることに成功した開発者が手放しで褒められていたようにも思える。
「毎年のモデルチェンジ」が悪循環を生み出す
しかし、資金調達はあくまでも通過点に過ぎない。
問題は、製品を作ってそれを出資者の自宅に配送することだ。クラウドファンディングとは基本的に「ユーザーが未完成の製品に出資する」という形であるため、もしも製品開発に失敗したら出資金も返ってこないことがほとんど。そして、Eyeもそのような運命をたどってしまったのだ。
EyeがKickstarterで資金を募っていた当時のiPhoneの最新ナンバーは「7」。しかし、その年にAppleは「8」を発表・市場投入している。その後もAppleは毎年同じ時期に、新しいナンバーを発表する。そのたびに本体の寸法や仕様が変更されることがあるため、ケース型ガジェットはこの仕様変更に歩調を合わせないといけないのだ。
開発が遅れている間にAppleが新しいiPhoneを発表し、それが開発遅延の要因になり、そうこうしているうちにまたAppleが新しいiPhoneを......という悪循環に、Eyeは陥ってしまったようだ。
筆者も出資...いまだに返金を確認できず
EyeはWi-Fi限定モデル(小売予定価格189ドル)とセルラー接続モデル(同229ドル)の2種類を公表していた。
Kickstarterではそれぞれ割引価格で提供すると約束されていたが、結局は製品配送も返金も行われていない。筆者自身、Eyeに出資していたのだが、2025年3月の今に至るまで1ドルの返金も確認できていない。
2010年代後半に巻き起こったクラウドファンディングブームは、しかしながらこのような「金返せ」案件が頻発していたと言わざるを得ない。斬新な製品は、それゆえに製品化が簡単ではないということをEyeは図らずも示したのだった。(澤田真一)