高額療養費見直し、東京都医師会もNO 消えぬ治療断念の懸念...それでもなぜ急ぐ?厚労省の見解は

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   患者の自己負担増につながる高額療養費制度の見直しに対し、東京都医師会が反対する声明を出すなど、医療関係者から次々と懸念の声が上がっている。

   高額な抗がん剤などを使っている患者が治療をあきらめてしまうのではないか、といった理由からだ。そんな中でも、2025年8月からの見直しは行う政府の方針が報じられているが、一体どんな事情があるのだろうか。

  • 高額療養費制度が見直されると…(写真はイメージ)
    高額療養費制度が見直されると…(写真はイメージ)
  • 東京都医師会の緊急声明
    東京都医師会の緊急声明
高額療養費制度が見直されると…(写真はイメージ)
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がん患者3000人以上から、見直しに悲痛な声が

「小さな子どもがおり、この子を遺して死ねません」「引き上げされることを知り泣きました」

   胃がんの治療を続ける20代女性は、高額療養費制度を使って家計をやりくりしているが、全国がん患者団体連合会のアンケートでこう訴えたという。さらに多くの医療費は支払えないといい、「死ぬことを受け入れ、子どもの将来のためにお金を少しでも残す方がいいのか追い詰められています」と現在の苦境を明かした。

   今回の制度見直しでは、年齢や所得に応じて、自己負担の限度額が2.7~15%引き上げられる。例えば、40歳で年収約600万円のケースなら、1が月で医療費100万円がかかるとすれば、現在は、3割負担30万円ではなく、限度額の8万7430円を支払うだけで済む。しかし、限度額が引き上げられれば、7830円の負担増になる。

   26年8月、27年8月と3段階の引き上げは、今回見送られたが、もし実現していたら、1万2180円ずつ上がり、3段階で計3万2190円の計算になる。政府は、26年以降は今秋までに制度を決めるとしている。引き上げられれば毎月のように大きな負担増の恐れがあるわけだ。

   制度見直しについては、24年10月の衆院選後から政府の動きが報じられ、年末にかけて次々と具体案が出てきた。これに対し、全国がん患者団体連合会では、見直しに異議を申し立て、25年1月には患者アンケートも行って3000人以上から悲痛な声が寄せられた。これを元に政府との交渉が行われた結果、1年で4か月以上制度を利用する長期治療の負担を軽減する「多数回該当」については、限度額が据え置かれることになった。ところが、石破茂首相は2月末、25年8月からの見直しは行う方針を表明し、現在もその方針だと報じられている。

「高額な薬剤が使われ、保険料負担増が悪化している」

   これに対し、全国がん患者団体連合会では、3月5日にあった参院予算委員会の参考人招致でも、制度見直しをいったん凍結するよう求めたほか、医療関係団体からも、同様に異議を唱える内容の声明が次々に出された。

   日本医師会では、長期治療に配慮した政府の予算修正案を理解する考えが示されたが、東京都医師会は5日、高額療養費制度見直しの凍結を求める緊急声明を公式サイトで独自に出した。そこでは、「所得の低い方は、今回の改正で医療の継続は難しくなります」として、「直接患者さんの命にかかわらない政策から実行に移すなど、都民・国民を巻き込んだ議論をした上で、納得できる削減策を新たに考えていくべきです」と提言している。

   同医師会の尾崎治夫会長は、自らのフェイスブックで「東京都は難病患者さん、癌患者さんも多数おられるので、まず声明を出すべきと考えました」と理由を説明した。

   医療関係者からも懸念が相次ぐ中で、なぜ制度見直しに政府は固執するのだろうか。

   この点について、厚生労働省の保険課は6日、J-CASTニュースの取材に対し、こう説明した。

「医療の高度化で高額な薬剤が使われるようになり、医療給付費が伸びてきており、高額療養費は全体の倍のスピードになっています。ここ10年間見直しがなかった中で保険料負担増が悪化しており、給付と負担のバランスが崩れて制度の存続可能性に疑問符が付くようになりました。もし、今回の修正案が通れば、医療給付費が100億円ほど減額になります。また、制度を見直せば、現役世代の保険料負担の抑制につながると考えています。手を付けやすい制度だからではなく、必要性があって見直しに着手しています」

(J-CASTニュース編集部 野口博之)

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