1on1ミーティング、上司・部下ともに「効果ナシ」3割 部下を成長に導く上司の3つの姿勢は/パーソル総研・児島功和さん

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   近年、部下の成長支援を目的とした1on1ミーティング(上司と部下の定期面談)の導入が、多くの企業で進んでいる。

   しかし、課題も浮き彫りになっている。上司からは「忙しいのに時間がとられる」、部下からも「何を相談すればよいのか、思い当たらない」といった意見などだ。

   「部下の成長」という目的を果たすにはどうすればよいのか。1on1ミーティングの調査をまとめたパーソル総合研究所の児島功和さんに話を聞いた。

  • 上司と部下、本音で話せたか(写真はイメージ)
    上司と部下、本音で話せたか(写真はイメージ)
  • (図表1)上司と部下、どちらが話す割合が高いか(パーソル総合研究所作成)
    (図表1)上司と部下、どちらが話す割合が高いか(パーソル総合研究所作成)
  • (図表2)1on1で困ったこと(パーソル総合研究所作成)
    (図表2)1on1で困ったこと(パーソル総合研究所作成)
  • (図表3)1on1を成功させるために必要なこと(パーソル総合研究所作成)
    (図表3)1on1を成功させるために必要なこと(パーソル総合研究所作成)
  • (図表4)1on1を通して部下を成長させる上司(パーソル総合研究所作成)
    (図表4)1on1を通して部下を成長させる上司(パーソル総合研究所作成)
  • 児島功和さん(本人提供)
    児島功和さん(本人提供)
  • 上司と部下、本音で話せたか(写真はイメージ)
  • (図表1)上司と部下、どちらが話す割合が高いか(パーソル総合研究所作成)
  • (図表2)1on1で困ったこと(パーソル総合研究所作成)
  • (図表3)1on1を成功させるために必要なこと(パーソル総合研究所作成)
  • (図表4)1on1を通して部下を成長させる上司(パーソル総合研究所作成)
  • 児島功和さん(本人提供)

上司・部下ともに「相手のほうがよく話す」と感じている

   パーソル総合研究所研究員の児島功和さんが2025年2月27日に発表したのは「部下の成長支援を目的とした1on1ミーティングに関する定量調査」という報告だ。

   1on1ミーティングは、部下の成長支援や信頼関係構築の手法として2010年代後半から急速に普及している。

   報告によると、1on1を直近半年で経験した部下の割合は55.7%で、一定程度の広がりがみられる。ただ、一度も経験したことのない部下が17.5%おり、実施頻度の平均は、ひと月あたり0.8回だった。

   興味深いのは、1on1時に上司は自分より部下が多く話していると感じている人が多い一方、部下は自分より上司が多く話していると感じている人のほうが多いことだ【図表1】。そして、1on1時に上司より部下の話す割合が高く、部下がその日に話すテーマを決めているほど、部下の成長度も高かった。

   1on1に関する課題を聞くと、上司・部下ともに「面談の効果が感じられない」と「面談について学ぶ仕組みがない」が約3割と、上位に並んだ【図表2】。

   1on1を効果的に改善するにはどうしたらよいか。上司の約7割、部下の半数以上が「『人材育成』を重視する組織風土をつくる」ことをトップにあげた【図表3】。

   調査結果では、1on1時に部下の成長に最もプラスの影響を与えていた上司の3つの姿勢が明らかになった。

   それは、「本音を話してくれる上司」「部下に配慮して、励ましの言葉をくれる上司」、そして「自分でも気がつかない、新たな視点をくれる上司」である【図表4】。

1on1がたまに行われる「イベント化」している

   J‐CASTニュースBiz編集部は、報告をまとめたパーソル総合研究所研究員の児島功和さんに話を聞いた

――1on1ミーティングの実施率が、直近半年で半数超、一度も経験していない部下が2割弱という結果、担当研究員としてズバリどう評価しますか。広がっていると言えるのでしょうか。

児島功和さん 1on1はある程度広がっていると感じます。しかし、実施頻度平均の低さ(ひと月あたり0.8回)を見ると、部下が日頃の仕事の振り返りに活用するには難しいように思います。

たとえば、1on1普及の火付け役といえるヤフーの1on1は、原則として週1回30分程度です(出所:本間浩輔『ヤフーの1on1』2017年)。1on1がたまに行われる「イベント化」しているような気がします。

――1on1の課題として、上司と部下ともに「面談の効果が感じられない」とする人が3割近くいます。なぜ、面談の効果が感じられないのでしょうか。

児島功和さん まず、上司の問題点ですが、調査結果から、上司の日頃の部下に対するマネジメント行動の重要性がわかっています。日頃から部下の意見を尊重し、仕事の進捗を確認し、部下を励ます。また、部下が一人では気づかない視点からの助言をしていること、などです。

部下からすれば、自分を尊重し、励まし、新しい視点から助言をしてくれる上司だからこそ信頼することができ、1on1時の上司の率直な言葉も自分の成長の糧とすることができるのだと思います。

つまり、上司がそれらのマネジメント行動をできていないことが問題なのではないでしょうか。また、1on1を「部下のための時間」と捉えていないこともあるかもしれません。1on1を部下の成長に結びつけたいのであれば、部下が主役なのに、1on1の時間中上司が一方的に話したり、何を話すかも上司が決めていたりすれば、それは「上司のための時間」になってしまいます。

――なるほど。では、部下の問題点は何でしょうか。

児島功和さん 調査結果から、部下は1on1について学ぶ仕組みがないことに困っていることがわかっています。傾聴やコーチングといった1on1に関連する研修を受講している部下は、そうではない部下よりも1on1を通じた成長度が高く、1on1に関するマニュアルや本を読んでいる部下は、そうではない部下よりも成長度が高いことがわかっています。

部下の問題点とは、まず1on1を活用するために必要なことを学んでいないことにあると思います。1on1は上司と部下の相互作用です。上司がいくら頑張っても、上司のメッセージを受け止める側の部下に上司の発言の意味を活かせる知識やスキルがなければ、上司の発言は「スルー」されてしまいます。

部下が仕事経験を自分の言葉で話せるようになることが重要

――たしかにそうですが、面白いと思ったのは1on1時に、上司は自分より部下が多く話していると感じており、部下は自分より上司が多く話していると感じる人が多い、という指摘です。この上司と部下のギャップは、どうして生まれるのでしょうか。

児島功和さん 部下からすると、1on1であっても上司・部下という上下関係のある中で行われている会話である以上、好きなように話せるわけではない。聞き役にまわるしかないと感じる以上、「自分より上司が多く話している」と感じるのではないでしょうか。

他方、上司からすると、1on1は忙しい中にその部下のために割いた特別な時間だという意識があります。そこで、部下が何かしら話していれば「部下はよく話している」と感じるのではないでしょうか。

――すごく納得できる指摘ですが、「部下の話す割合が高いほうが、部下の成長度も高くなる」とする調査結果とどうつながるのでしょうか。

児島功和さん 上司と部下の認識ギャップとの関係で説明することは難しいですが、次のように考えます。

今回調査での「成長」とは自分の仕事経験をきちんと振り返ることができ、仕事のコツをつかめるようになる、ということでした。きちんと振り返るためには、自分の言葉で話せるようになる必要があります。そして、上司は部下が自分の言葉で話せるようになるためのサポート役でいる必要があります。

1on1の場で、上司ばかりが話していても(〇〇ならこうすればよい等)、部下は仕事経験を自分の言葉で掘り下げることはできません。また、部下が話をしなければ、上司もどうフィードバックをしてよいのかわからないということがあるでしょう。このようなことから、「部下の話す割合が高いほうが部下の成長度も高くなる」ということが言えるように思います。

1on1は「部下のための時間」だ、上司は聞き役に徹するくらいがいい

――1on1が効果をあげるようにするには、上司、部下ともに何を準備し、どういう心がまえで臨めばいいでしょうか。

児島功和さん 上司は日頃から部下の意見を尊重したり、部下を励ましたり、部下に俯瞰的な視点から助言することを通じて、部下からの信頼を得ることが大切でしょう。

そのうえで、1on1は「部下のための時間」であることを再確認し、部下の話を聞きながら「今日は聞き役にまわりすぎかな?」と思うくらいがちょうどよいのではないでしょうか。そのうえで、上司は自身の思いを率直に語るとよいと思います。

部下は、1on1に関するマニュアルなり書籍に少しでも目を通しておき、上司の話をしっかり聞き、そのうえで仕事経験についてたどたどしくても自分の言葉で話せるようにしたほうがよいでしょう。

――会社としても上司、部下の1対1の関係に任せず、何を一番重要視すればよいでしょうか。

児島功和さん 1on1を上司のスキル問題としてではなく、組織問題としてとらえることが一番重要です。そのうえで自分たちが従業員の成長を重視する組織であり、かつ成長のために支援は惜しまないというメッセージを従業員に伝えることが大切でしょう。

今回の調査結果でも、上司、部下はともに1on1を改善するには「『人材育成』を重視する組織風土をつくる」ことが最も重要と答えていました。近年は管理職の罰ゲーム化とも言われますが、1on1を導入しても現場に丸投げ、上司に丸投げでは上手くいかないと思います。

上司からすると「もう抱えきれない!」というのが現状です。会社として、人材育成の重要性を確認しつつ、どのような人材を育てたいのか、育てるにはどうすればよいかと検討を進めたうえで、そこで「1on1だ!」となれば、1on1が上手くいくためには何をすればよいのかと考えを進めていく。これが重要であるように思います。

上司と部下が試行錯誤しながら、「今回はいい時間だった!」と感じる時がくる

――「最初に1on1ありき」ではないということですね。最後に今回の報告で特に強調しておきたいことや、上司・部下たちに対するエールをお願いします。

児島功和さん 私は1on1について調査研究をするだけではなく、自分自身も部下として1on1を経験し、また1on1に関する実践的な講座でも学んできました。

その講座で感じたことは、「1on1は難しい!」ということです。上司も部下も練習が必要なのです。また、その講座では1on1を積極的に活用している企業の方のお話もうかがいました。その企業の方も仰っていましたが、1on1を育てていくための試行錯誤が大切なのです。

1on1は一見、簡単そう。でも、実はそうではない。1on1終了後に上司も部下もモヤモヤするのは当然だと思います。上手くいかないのは当たり前。しかし、上司も部下も、試行錯誤していくうちに「今回はいい時間だった!」と感じる時が来ると思います。

上司も部下の話を聞けなかったと感じれば、「今日はうまく話聞けなかったね」と部下に伝えてもよいのではないでしょうか。部下も「今日はうまく自分の考えたことを話せませんでした」と上司に伝えてもよいかもしれません。上司、部下のそうした率直さが互いへの信頼を育み、1on1をよりよいものにしていくはずです。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)



【プロフィール】
児島 功和(こじま・よしかず)
パーソル総合研究所シンクタンク本部研究員

2010年、東京都立大学大学院人文科学研究科教育学専攻(博士課程)単位取得満期退学。日本社会事業大学、岐阜大学、山梨学院大学の教員を経て、2023年4月より現職。

大学教員としてはキャリア教育科目の開発・担当、教養教育改革、教員を対象とした研修運営などを担当。研究者としては、主に若者の学校から職業世界への移行、大学教職員や専門学校教員のキャリアに関する調査に関わってきた。専門社会調査士。

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