街の美容室の倒産が急増している。帝国データバンクが2025年3月4日表した「『美容室』の倒産動向(2024年度」によると、過去最多を大幅更新する勢いだ。
背景にはコスト高に加え、新規参入による競争の激化、さらに女性のヘアスタイル変化や、節約のためセルフカットする人が増えている影響もあるという。調査担当者に「イマドキ美容事情」を聞いた。
節約志向高まり、パーマなど高単価メニューが厳しい
帝国データバンクの調査によると、2024年度に発生した美容室の倒産(負債1000万円以上、法的整理)は、2月までに197件で、これまで最も多かった23年度の累計(182件)を上回って過去最多を大幅に更新する勢いだ【図表1】。
美容室の経営は、スタイリストなどの「人手不足」に加え、シャンプーをはじめとした美容資材の値上げや水道光熱費、テナント料などの「コスト高」、新規開店が続く「同業者の競争激化」といった「三重苦」に直面している。
特に美容資材は円安も影響して値上がり傾向が続き、シャンプーやヘアコンディショナー、整髪料などのヘアケア用品価格は5年間で約14~16%上昇した。また、スキルや集客力の高いスタイリストを引き留めるために給与水準が上昇し、人件費の負担も重くなっている。
このため、美容室の24年度業績(2月まで判明分)は約3割が赤字経営となったほか、前年度からの「減益」を含めた「業績悪化」の割合は6割を占めた。
その一方で、新規開業やフリーランス美容師の登場などで競争が激化。客の節約志向もあって、「パーマネントなど高単価の施術メニューが厳しい」といった声も。そのため、都市部では顧客獲得の割引クーポンを発券するなど実質的な値下げ競争も起こっている【図表2】。
帝国データバンクでは、こう分析している。
「足元では、眉毛サロンやヘッドスパメニューなど、施術メニューに新たなサービスを導入することでリピーター客の定着を図る動きも進んできた。プレミアムサービスの提供など価格戦略の見直しや、顧客データに基づくマーケティングといったデジタル技術の活用などが、今後の美容室経営に求められる」
腕のいい美容師ほど、独立して自分の店を持ちたい人が多い
J‐CASTニュースBiz編集部は、調査を担当した帝国データバンク情報統括部の飯島大介さんに話を聞いた。
――倒産急増の背景の1つに、人手不足などと並んで新規開店による競争の激化をあげています。そもそもなぜ新規参入が多いのでしょうか。一方で、スタイリストなどの「人手不足」という理由と矛盾しないでしょうか。
飯島大介さん 理美容師の多くは、固定給+カット人数・メニュー単価に応じた歩合給となっています。ただ、全体で見れば理美容師の平均年収は300~400万円台と言われ、見習いのスタイリストなどはより低い水準と考えられます。
そのため、スキルの高い美容師や固定客の多い美容師では、より良い待遇を得るために独立して自分の店を持ちたい意欲は高く、多くの美容室が誕生する背景の1つとなっています。
他方で、既存の店からすれば売り上げの見込める美容師が辞めてしまうほか、こうした腕のいい美容師ほど独立志向が高い状態のため採用も難しく、結果的に人手不足感を抱えてしまう要因となっています。
ショートヘアや、セルフカットの流行もピンチに追い討ち
――なるほど。ところで、若い女性たちは市販のヘアカラーやセルフカットができる機器を使ったりして、自分でやっている(ホームケア)人が多いと聞きます。また、YouTobeやTikTokなどで美容師が便利な器具を使ってセルフカットする動画もよく見かけます。自分で簡単にできるようになったことも影響しているのではないでしょうか。
飯島大介さん 実際にその通りと思います。市販の美容機器も充実しており、簡単な調整であればセルフカットで十分、という層が増えているのは確かです。ただし、その背景には昨今の実質所得減少による家計の余裕のなさがあると考えられます。
――帝国データバンクが昨年(2024年)8月に発表した同様のリポートでは、ヘアスタイルの流行が洗髪しやすいショートカット系に移り、高いパーマネント施術が減ったと指摘していましたが、今回もそういう傾向があるでしょうか。
飯島大介さん 傾向としては同様です。手入れに時間のかかるロングカットヘアから、手入れが容易で美容室へ出向く間隔も長くなるショートヘア・ボブカットヘアが人気の傾向には変わりありません。
最近は、カットにプラスアルファとして眉カットやヘッドスパなど、ヘアカット需要以外を取り込むことでカット機会の減少分を補おうとする動きもあります。
客の「メリット」「お得感」「贅沢」をどう体験できるかがカギ
――分析では、「プレミアムサービスの提供やデジタル技術の活用」に触れていますが、具体的にはどういうことでしょうか。
飯島大介さん いま述べたことと重なりますが、プレミアムサービスではラグジュアリーな設備や個別のカスタマイズ対応などがあげられます。上質なヘッドスパやトリートメントを取り入れる、専任スタッフによるマンツーマン対応などで非日常感を提供するものです。
一部ではサブスクリプションサービスの導入も広がっています。毎月の美容費が一定になり、好きなサロンに好きなタイミングで通うことができる客のメリットと、空き時間を有効に活用することで稼働率向上が見込める美容室側のメリットが重なり、相乗効果で売り上げ増が見込めるからです。
また、デジタル技術では予約システムの導入と、その分析があげられます。LINEアカウントを活用して予約客の属性を分析し、最適なタイミングで再来店を促したり、好みに合う髪形やメニューを提案したりすることで、メニュー単価の引き上げに成功した事例などがあります。
――今後、美容室が生き残るためには、どういう工夫が必要でしょうか。
飯島大介さん 美容室自体は、「髪を切る」行為そのものが同じなため差別化が難しく、顧客体験や費用感を含め、利用者にとって「メリット」「お得感」「贅沢」など求めるニーズにどう対応できるかがカギになるとみられます。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)