ライター業界には2、3年ほど前まで「書き起こしライター」という業種が存在した。
ICレコーダーに収録したインタビュー音声を、一字一句文字を起こして、それを整理する役割の人である。
インタビュー記事などはそれをもとに他のライターが執筆するのだが(もちろん人にもよるが)、ここ2年ほどでそのような作業にも省力化の波が訪れた。飛躍的に進化したAI技術が、書き起こしライターの「仕事」をしてくれるようになったのだ。
そして、ICレコーダー自体も大幅な進化を遂げている。その中でも昨年(2024年)の暮れ頃から、テクノロジーライターの間で大きな話題になっているのが『PLAUD notePin(プラウド ノートピン)』だ。価格は2万8600円。
マイクの小型化がICレコーダーの形を変える
たとえば、首相官邸や国会議事堂で議員を待ち構えている記者が、本人の登場と同時に差し出す細長いスティック状のガジェットを見たことがあるかもしれない。ICレコーダーは、要人の発言の記録や会議の内容の保存など、あらゆる場面での音声収録に用いられるものだ。
しかし、PLAUD notePinはそんな従来型のICレコーダーとは一線を画すデザインだ。
のっぺりとした楕円形のこのガジェットは、専用のリストバンドで腕時計のように装着したり、首元を飾ったりといったファッショナブルなのが特徴だ。まさかこれがICレコーダーだとは、あらかじめ説明されなければ想像もできないだろう。
近年はマイクの小型化が進み、製品の本体に埋め込むタイプのものも珍しくなくなった。それは同時に、製品自体の小型化を促している。
だが、なんといってもPLAUD notePinの中核的機能は、これと接続するソフトウェア(アプリ)にある。
書き起こした文章を要約することも
生成AIの「GPT-4o」や「Claude 3.5 Sonnet」をベースに開発されたというPLAUD AIアプリは、PLAUD notePinを含むPLAUDブランドの製品が収録した音声を書き起こす機能が与えられている。
上述の通り、「音声を書き起こす」という作業は数年前までは人を1人雇わなければならないほど面倒かつ膨大なものだった。それが音声収録さえできていれば、あとはアプリに書き起こしの仕事を丸ごと投げる......ということができるようになったのだ。
そのうえ、PLAUD AIアプリは書き起こした文章の内容を短く要約する機能も備わっている。
ライター稼業では、この「要約する」という作業は、できる人とできない人の差がけっこう激しい。
たとえば、文学作品の内容を短く要約しろと言われたら、多くの人は頭を悩ませるはずだ。『カラマーゾフの兄弟』(ドストエフスキー)や『薔薇の名前』(ウンベルト・エーコ)といった難解で長大な作品ほど、それを短くして要約する作業はかなりの困難を極める。発言者ごとにあらゆる表現が飛び交う会議、複数人を相手にするような取材であれば、なおさらではないか。
しかし、PLAUD AIアプリは人間に代わって実行してくれるのだ。
書き起こしに特化したAI連携ガジェットの登場により、1つの業種が消えてしまったととらえられるかもしれないが、それは個々の仕事が大幅に効率化し、1人ではできなかったことが簡単にできるようになったという意味でもある。
AIは我々の暮らしを大きく変革し、同時に現代人の「仕事の中身」に多大な影響を与えようとしている。(澤田真一)