文庫本が売れない。というより、文庫本も売れない。出版科学研究所によると、2014年以降、毎年5~6%の販売減が続いていて、8574点だった文庫新刊が22年には6484点と25%も減った。売れないから出版点数を絞る。点数が減れば販売部数も減り、さらに点数を絞るというという悪循環になっている。
スマホに負けてしまう
文庫本の人気は「安くてポケットに入るコンパクトさ」だったが、いまや安くもコンパクトでもなくなった。2022年の出回り平均価格は711円で、消費税込みで800円近い。10年間で86円、約14%上がった。
価格が上がっているのは、用紙代、印刷代、配送費などのコストが上がっているからで、1冊1000円を超えるものも珍しくない。読書家からは、「ハードカバーから文庫落ちを待って買っていたのに、最近はたいして安くならないので意味がありません」という声が上がる。
コンパクトでもなくなった。どんどん厚くなって、以前は1.5センチ程度だったが、最近は2センチ以上が多くなっている。出版社の文庫担当者は「書籍の読者層の中心は中高年ですが、それに合わせて活字を大きくしたり、文字組みをゆったりしたりしています。その分、1ページに入る字数は少なくなり、ページ数が増えて厚くなるんです」
赤字をカバーしていた文庫本が赤字に
文庫本は電車や飛行機、街中で人待ちの時などに読まれてきたが、今はスマホで足りるし、持ち歩きの邪魔にならないということでは、こちらの方がコンパクトだ。さらに、電子書籍は文字サイズも好みに合わせて変更できる。「近頃はもっぱらタブレットのこっち」という中高年の本好きも増えているという。
文庫本の販売減の直撃を受けているのは文芸系の出版社である。文芸誌は赤字、単行本で黒字になるのは数冊に1冊という苦戦を、文庫本でカバーしているのだが、その文庫本が売れなくなっていよいよ厳しい。出版社によっては文庫本の用紙を他社と共通化してコストを下げたり、電子書籍に大きくシフトしたりしているが、苦境は変わらない。
ところで、公立図書館で同じ小説の単行本と文庫本の両方を貸し出しているが、図書館に置くのは単行本だけ、文庫本は仕入れ内で、読みたい利用者は買ってくださいというのではだめだろうか。
(シニアエディター 関口一喜)