3月、4月に本格的な花粉の飛散シーズンがやってくる。早くも症状が出ている人も多いだろう。
花粉症は転職を目指す人にも大ピンチであることが、就職情報サイトのマイナビ(東京都千代田区)が2025年2月13日に発表した「マイナビ 花粉症と仕事に対する調査」でわかった。
転職が盛んな20代の2人に1人以上が「花粉症が転職活動に影響している」と回答。求職者にとっても企業にとっても、ハッピーな解決方法はないのか。マイナビの朝比奈あかりさんに聞いた。
20代転職者の7割が花粉症、うち半数が転職活動に影響あり
マイナビの調査(2024年1月6日~9日)は、2024年12月に転職活動を行なったか、今後3か月以内に行う予定の20~50代の正社員1368人と、企業の採用担当者849人が対象だ。
まず、転職活動者に花粉症かどうかを聞くと、56.3%が「花粉症である」と回答。最も多いのは20代(68.1%)で、年代が低いほど花粉症の割合が高い【図表1】。
花粉症の人のうち、「花粉症が転職活動に影響している」と感じている人は35.2%。年代別に見ると、20代は50.7%となり、転職活動への影響は若いほど高い【図表2】。
具体的にどんな影響が出たのか。花粉の飛散時期を避けて「転職時期をずらした」、花粉症のため「応募する職種や業種を変更した」、鼻水やくしゃみがひどく「面接などでパフォーマンスが低下した」といった回答が上位に並んだ【図表3】。
こうしたことから、転職先として花粉症対策を実施している企業を魅力的に感じる人が多い。魅力的だと思う企業の対応を聞くと(複数回答可)、「花粉症手当(花粉症の診察費・薬代・マスク代)の支給」が最も多く、次いで「空気清浄機の設置など空調の整備」が続いた【図表4】。
一方、企業側でも約6割(57.5%)が花粉症対策を実施していた。最も実施している施策は「空気清浄機の設置など空調の整備」、次が「花粉症対策グッズ(マスクやメガネ、ティッシュ)の支給」だ。しかし、転職活動者が最も魅力的と感じている「花粉症手当の支給」を実施している企業は少数(26.8%)にとどまった。【図表5】。
花粉症は面接する側とされる側、双方がパフォーマンス低下
J‐CASTニュースBiz編集部は、リポートをまとめたマイナビのキャリアリサーチラボ研究員の朝比奈あかりさんに話を聞いた。
――転職を考えている正社員の約56%が花粉症という調査結果、私自身も花粉症がひどいので面接選考の時期と花粉の飛散時期と重なったらと考えると、苦労を察します。やはり、転職活動への影響は大きいようですね。
朝比奈あかりさん 「花粉症の転職活動への影響」については、5項目で聞いています。「転職時期をずらす」「応募する職種や業種を変更」「応募するエリアの変更」「面接などでのパフォーマンスの低下」などですが、いずれの項目でも20代の「あてはまる」割合がほかの年代よりも高い傾向にありました。
ちなみに、花粉症が原因で「応募するエリアを変更したことがある」という人は全体で27.8%ですが、20代では47.4%と半数近くが応募エリアにも影響があったと回答しています。
また、個人だけでなく企業側にも「花粉症による中途採用への影響」を聞いています。自社の中途採用担当者が花粉症によってパフォーマンスが低下すると思う割合は30.5%でした。転職活動を行っている個人だけでなく、企業側にも花粉症の影響がある可能性がうかがえます。
また、採用担当者の約3人に1人が、求職者に対して「花粉症で面接時のパフォーマンスが低下している」と感じたことがあることがわかりました。
そして、中途採用担当者の約3人に1人が、「求職者が花粉症であることを面接で考慮することがある」と回答しています。つまり、花粉症は面接する側(採用担当者)とされる側(求職者)の双方にパフォーマンスが低下をもたらしているわけです。
未経験分野に転職する人が20代、花粉症のプレッシャーが大きい
――転職活動者の花粉症は20代が約7割と最も多く、「花粉症が転職活動に影響する割合」も20代が半数以上で最も高いです。20代は転職が一番活発な年代ですから、「もう1つの敵」とも戦わなくてはならないわけですね。
朝比奈あかりさん 環境省の「花粉症環境保健マニュアル2022」をみると、花粉症の年齢別有病率(スギ花粉症+スギ以外の花粉症)は10代がもっとも高く、次いで20代となっています。今回の調査は20~50代の正社員に聞いていますから、似た傾向が出ているのではないかと推察しています。
20代が花粉症の影響を受ける割合が高いのは、20代の転職の特徴が関係している可能性があります。マイナビが行っている最新の転職動向調査では、20代は未経験の業種・職種に転職する割合がほかの年代より高い。
経験を活かした転職なら、面接時に過去の経験や実績を話せばよいですが、未経験転職では、過去の経験だけでなく、未経験の業種・職種にチャレンジできるポテンシャルを強くアピールする必要があります。
つまり、コミュニケーション力や、受け答えの明瞭さなどをアピールしたいと思ったとき、花粉症による目のかゆみや鼻炎、くしゃみなどは悪影響となってしまう可能性が高いのではないでしょうか。
――なるほど。未経験の業種・職種への転職では「面接力」が大いに影響するから、逆に花粉症をもっているとプレッシャーになってしまうわけですね。ところで、花粉症対策を実施している企業が6割という結果はどう評価しますか。
朝比奈あかりさん 過半数の企業が対策を取っていることから、花粉症が与える業務への影響の大きさがうかがえました。政府も2023年に、「発症等対策」「発生源対策」「飛散対策」の花粉症対策3本柱を発表しています。花粉症は社会問題として注視されているため、今後も企業の対応が求められていくと考えられます。
しかし、対策内容が不十分だと、「花粉症による業務への影響を緩和する」という根本的な解決につながらないのではないかと考えられます。
個人が望む1位「花粉症手当の支給」、企業の1位「空調の整備」
――【図表4】では、休職者にとって魅力的な企業の花粉症対策を並べています。一方、【図表5】では、企業の実際の対策を並べています。これを見ると、個人のトップが「花粉症手当の支給」なのに、企業のトップが「空気清浄機など空調の整備」と、両者の間のギャップが目立ちます。
朝比奈あかりさん マイナビの調査では、個人が花粉症対策として実施していることの1位は「マスクを着用する」、2位は「花粉症用の薬を服用する」です。そして、実施していることの中で効果があるものの1位は「花粉症用の薬を服用する」、2位は「マスクを着用する」でした。
企業の有効な対策は、個人が花粉症対策で効果があると感じるものの上位をサポートするような対策であってほしいと思います。ですから、個人が最も望んでいる「花粉症手当の支給」は有効な対策となり得ると考えています。
――なるほど。その有効な花粉症対策を取っているかどうかが、転職先選びに影響することはないのでしょうか。
朝比奈あかりさん もちろん、花粉症対策が充実している企業に魅力を感じる花粉症の求職者はいると考えられますが、あくまで補助的な要素だと思います。
調査では、転職先の決定理由上位は「給与が良い」「休日や残業時間が適正範囲内で生活にゆとりができる」となっています。花粉症対策をはじめ、「福利厚生が整っている」ことは転職先の決め手にもなり得ることですが、給与や休日数などと合わせて、複合的に転職先を判断していると考えられます。
ウェブ面接や、対面面接でも空気清浄機を設置する配慮を
――リポートでは、花粉症の求職者のために花粉症がつらい3~4月は「ウェブ面接」の選考もできるよう配慮する必要があると指摘しています。ほかにも企業がすべき花粉症を考慮した採用選考方法がありますか。
朝比奈あかりさん たとえば、採用担当者が面接を始める前にアイスブレイク(緊張をほぐす話題)として花粉症の話を取り上げ、求職者が花粉症である場合にはその配慮を明示することが、安心して面接に臨むための一助となるでしょう。
また、対面面接を行う場合は、部屋に空気清浄機を設置したり、窓を開けての換気をひかえたりなど、部屋に花粉が入らない配慮をしておくと、花粉症がつらい求職者も本来の実力を発揮しやすいのではないかと考えています。
――今回のリポートで特に強調しておきたいことがありますか。
朝比奈あかりさん 花粉症が仕事に影響を及ぼしている認識が広まりつつあり、花粉症手当の導入など対策を行う企業はすでに一定数存在しています。一方で、花粉症が転職活動にも影響を及ぼしていることについては、まだ十分に認識されていません。
花粉症の人の中でも、特に20代は半数以上が「転職活動に影響している」と回答しており、全体でも3人に1人以上が同様の傾向を示しています。企業は自社内の花粉症対策を進めるだけでなく、花粉症の時期には転職者に対しても配慮する必要があると考えています。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)
【プロフィール】
朝比奈あかり(あさひな・あかり)
マイナビ社長室 キャリアリサーチ統括部キャリアリサーチラボ研究員
2016年中途入社、「マイナビ転職」の求人情報や採用支援ツールの制作に携わる経験を経て2020年に現職へ。
専門・研究分野:中途採用領域全般、正社員の働き方、転職と賃金の関わり、キャリア自律など。