旅行ガイドブック「地球の歩き方」の中国編に、この本を持っていると中国の入国審査時に没収されたり、別室に連れて行かれたりすることがあると注意喚起が書かれてあったとXで紹介され、一体なぜと関心を集めている。
実際に体験したとする書き込みも見られ、ネット上では、理由についていくつか推測がされている。地球の歩き方が没収などされるというのは、どこまで本当なのだろうか。
「中国側の政治的立場に基づく何らかの事由」か
地球の歩き方については、2019~20年版で現在も発売中の中国の「上海 杭州 蘇州」編にある注意喚起について、25年2月24日にXで取り上げられて、大きな話題になった。
それは、「中国入国時の注意」として赤く囲まれたコラムで、「!」マークで注意が促されていた。
没収などされるのは、空路ではなく陸路の国境で起きることが多いという。理由は、審査官によって様々だが、「おもに中国側の政治的立場に基づく何らかの事由を理由として述べるようです」とした。ガイドブックと直接、あるいはまったく関係ないこともあるという。
「話し合いで解決できる余地は一切ありません」と指摘し、「トラブルをできるだけ避けるために、入出国手続きの際には本書を目に触れない所へしまっておくことをおすすめします」ともした。とはいえ、19年5月には、チベット自治区の陸路国境でX線検査が行われた結果、ガイドブックが没収されたとの報告があり、対処が難しいこともあるという。万一、トラブルが発生したときは、日本の総領事館に連絡するよう勧めている。
この注意喚起を取り上げたX投稿は、19万件以上の「いいね」が集まるほど関心を集めている。没収などされる理由について、様々な憶測も流れているが、過去のネット投稿を見ると、実際に体験したとする書き込みも見られた。06年7月の投稿では、台湾の色が中国と異なっていたから地球の歩き方が没収されたとあり、最近でも、24年10月の投稿で、地球の歩き方の地図を広げてチェックされたが、台湾の表記が原因ではないかと指摘していた。
外務省「特に地図には注意を」、没収事案は「承知していません」
地球の歩き方でも、25~26年版の「北京」編では、同じ「中国入国時の注意」のコラムに、24年1月に中国・瀋陽の空港における入国審査で韓国人旅行者が世界地図の描画を持っていたとして拘束された、との最新情報が加えられている。
実際、韓国メディア「聯合ニュース」がこのとき、台湾が地図上で別の国のように表示されているという理由で韓国人旅行者が一時拘束されて地図が破り取られた、と報じている。また、中国当局は、チベット一帯の国境表示もあいまいになっているとも指摘したという。
没収などされる理由について、出版社「地球の歩き方」(東京都品川区)の出版編集室担当者は25年2月26日、J-CASTニュースの取材に対し、次のように話した。
「中国側でないと分かりませんので、こちらからはお答えすることはできません。地球の歩き方がブラックリスト入りしたとは聞いておらず、必ず没収などされるものでもありませんが、10年以上前から事例があると報告されていますので、掲載しています。24年以降については、報告は聞いていません」
地球の歩き方のシリーズについては、順番に改訂しており、中国編だから改訂が遅れているわけではないという。
地球の歩き方が没収などされることがあるかについて、外務省の海外邦人安全課は26日、取材に対し、こう答えた。
「持ち込んで没収されたり、別室に連れて行かれたりしたという事案は、承知していません。拘束されたなどのトラブルがあれば、最寄りの領事館に連絡が来ることがありますが、入国審査時のやり取りだけのものについては、把握していません」
在中国日本国大使館による24年12月の「安全の手引き」などでは、中国の政治・経済・文化・道徳に有害な印刷物などは持ち込み禁止になっており、中国国外では一般的な内容であっても「有害」とみなされて没収されることがあり、特に地図には注意してほしいと呼びかけている。
この点について、海外邦人安全課では、次のように解説した。
「政府や軍の施設の近くで地図を広げれば、地形の調査をしているのかと違和感を持たれることがあります。挙動不審と捉えられかねない行為については、気を付けてほしいということです。出入国審査時に地図を広げて、没収などされた事案については聞いていませんが、台湾や尖閣諸島など歴史問題に絡むことは、中国では機微な要素になりますので、他の国よりも注意してほしいと思います」
(J-CASTニュース編集部 野口博之)