メンタルに不調を抱える20代社員が増えている。過去3年間で「日常生活が困難なレベル」になった人が20代で2割前後いるという。
そのうち通院治療をしている人が約半数。じつはメンタル不調が若手社員に多い離職の隠れた大きな理由になっている。不調者が休業すると、しわ寄せが同僚の負担となり、職場がメンタル不調のドミノ倒しになりかねない。
どうしたらよいのか。メンタル不調増加の背景をリポートにまとめた人材支援のパーソル総合研究所の金本麻里さんに話を聞いた。
メンタル不調を感じたことをきっかけに、退社する20代が多い
<20代社員の2割が「メンタル不調」...離職予備軍に 「上司は早めの声掛けで、不安を取り除こう」パーソル総研・金本麻里さん(1)>の続きです。
――20代のメンタル不調者の離職率が飛び抜けて高い背景は何でしょうか。若いから転職しやすいと報告で指摘していますが、個人的にはメンタル不調の原因を今の職場が作ったという側面が一番大きいのではと考えますが、いかがでしょうか。
金本麻里さん メンタル不調の原因については、今回の調査は正規雇用者(正社員、公務員)が対象なこともあり、どの年代でも仕事が主な原因だという人が8割と多いです。仕事が原因のメンタルヘルス不調に対して、どう対処しようと考えるかという点に違いがあるのだと思います。
30代以上では転職でつぶしがききづらい、家族がいて待遇を下げたくないなどの事情で、なんとか今の組織にとどまろうとする人が多くいると思います。一方で、20代はやり直しのきく年齢なので、今の組織にこだわる必要はそれほどありません。その点が一番大きいのではと考えています。
――離職理由にメンタル不調を上げた人が20代では2割近くいますね。ほかの研究機関のさまざまな調査では若手の離職理由の第1に「給与の低さ」が上げられますが、じつは「メンタル不調」も隠れた大きな理由だということですか。
金本麻里さん そうですね。今回の調査でも、離職理由の1位は「収入や待遇への不満」です。20代の場合、「メンタル不調」は、「ハラスメント」や「家庭の事情(結婚・出産・育児・介護)」よりも多く、「労働条件」や「職場の人間関係」に次ぐ大きな理由の1つになっています。
ただ、この設問ではメンタル不調の程度は特に指定しておらず、本人の感覚で答えてもらっているので、軽微な症状も含まれている可能性はあります。本人は職場に言わないことが多いですが、何らかのメンタルの不調を感じたことをきっかけに辞める20代は意外と多いことが分かります。
上司や人事は、メンタル休職後のキャリアをイメージさせるべき
――休職後に退職する割合が20代では半数近くに達しますが、上司としても悩ましいですね。上司は、若手社員が休職を申し出たら、離職を覚悟しなくてはならないのでしょうか。その際、上司はどういう対応をとったらよいでしょうか。また、会社として若手社員のメンタルケアに力を入れるには、どういう対策が必要と考えますか。
金本麻里さん もともと職場の何らかのストレスが原因でメンタルヘルス不調になっている人が多いので、休職期間中に転職や退職を検討する20代が多いのはうなずけます。
また、休職・復職についてよく知らない若手が多いこともあり、メンタル休職がキャリア形成にマイナスになるのではないか、復職後に周囲の対応が変わってしまうのではないかなど、不安をもつ人が多いです。
上司や人事としては、復職時の配置や仕事内容の決め方、情報共有の範囲、評価や昇進・昇格への影響など、復職後どうなるのかというイメージを共有し、不安をとりのぞくことが重要になると思います。
――なるほど。上司や人事も手をこまねいてばかりいないで、先手を打って不安を取り除くことが大切ですね。
金本麻里さん メンタルヘルス対策は、50人以上の会社はどこもストレスチェックをはじめとして行っている状況ですが、あと一歩の情報共有が足りておらず、ギリギリまで相談せず悪化する人や退職する人が後をたたない状況だと思います。
これは、とてももったいないことです。上司や人事は、何かあれば自分から相談してくるだろうと考えず、相談のハードルを下げる情報共有(自社のメンタルヘルス対応方針や相談してよくなった事例など)や、声掛けなどが重要だと思います。
メンタルではなく、体調不良という形で早めに相談しよう
――今回のリポートで特に強調しておきたいことや、20代社員へのアドバイスがありましたらお願いします。
金本麻里さん 20代社員へのアドバイスとしては、現在では法整備が進んでいますので、メンタルヘルス不調の原因が仕事にある場合、相談すれば業務調整や配置転換など、実効的な対応をしてもらえる可能性は大いにあります。
また、今回の調査では、こと仕事が原因のメンタル不調の場合、医療受診よりも職場に相談したほうがストレスの原因にアプローチでき、健康を取り戻せる可能性が高いことも示唆されています。
会社としても、突然倒れて休職になっては困りますから、従業員の健康状態は把握しておきたい情報です。メンタルというと色眼鏡で見る人もいますし、言い出しづらければ、体調不良の相談という形で、早めに相談してみるとよいと思います。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)
【プロフィール】
金本 麻里(かねもと・まり)
パーソル総合研究所シンクタンク本部研究員
東京大学大学院総合文化研究科修了。総合コンサルティングファームに勤務後、人・組織に対する興味・関心から人事サービス提供会社に転職。適性検査やストレスチェックの開発・分析報告業務に従事。調査・研究活動を通じて、人・組織に関する社会課題解決の一翼を担いたいと考え、2020年1月より現職。
専門分野:職場のメンタルヘルス、アセスメント・サーベイ開発、障害者雇用。産業カウンセラー、日本感情心理学会所属
主なリポートに「職場の精神障害のある人へのナチュラルサポートの必要性 ~受け入れ成功職場の上司・同僚の特徴から~」「ミドル・シニア就業者の趣味の学習実態と学び直しへの活用法」「ハラスメント被害者の泣き寝入りと離職の実態」「仕事における幸福(Well-being)の状況~世界各国の『はたらいて、笑おう。』調査データから見る~」など。