メンタルに不調を抱える20代社員が増えている。過去3年間で「日常生活が困難なレベル」になった人が20代で2割前後いるという。
そのうち通院治療をしている人が約半数。じつはメンタル不調が若手社員に多い離職の隠れた大きな理由になっている。不調者が休業すると、しわ寄せが同僚の負担となり、職場がメンタル不調のドミノ倒しになりかねない。
どうしたらよいのか。メンタル不調増加の背景をリポートにまとめた人材支援のパーソル総合研究所の金本麻里さんに話を聞いた。
メンタル不調者が出ると、職場がドミノ倒し的に疲弊する
パーソル総合研究所研究員の金本麻里さんが2025年2月21日に発表したのは「20代若手社員のメンタルヘルス不調増加が企業に与える影響」という報告だ。
この報告は、同研究所が2024年8月に実施した「若手従業員のメンタルヘルス不調についての定量調査」を基にしている。20~69歳の2万人が対象だ。
過去3年間で「日常生活が困難なレベル」のメンタルヘルス不調の経験をした割合は、20代社員で最も多かった。男性で18.5%、女性で23.3%と約5人に1人が経験している。しかも、そのうち半数が病院で治療を受けていた【図表1】。
さらに、20代社員のメンタル不調は離職に直結しやすい。退職率は35.9%と約4割に上る。他の年代では2割前後だから20代だけが突出して多い【図表2】。
ところが、メンタル不調による離職は顕在化しづらい。離職した若手のうち、職場に相談したのは約半数のみ。また、前職を「メンタル不調」が原因で退職したと答えた割合は、20代では18.2%にとどまる【図表3】。
休職後に退職をする割合も20代は高い。メンタル不調により休職した20代のうち、その後自主退職したのは約半数。30~40代の約2倍だ【図表4】。若い社員がメンタル不調になると、「まずは休んで」と休職を提案されるが、休職中に転職活動をすることが多く、離職につながりやすいのだ。
こうしたメンタル不調者は、管理職や同僚に多大な負担を与える。管理職は、不調者の業務を他のメンバーに振り分けたり、自ら肩代わりしたりする必要がある。また、不調者との接し方がわからないという声も多い。
同僚の負担も深刻だ。他の部下が業務のしわ寄せによって疲弊したと回答した管理職は約半数。そのため、他の部下たちもドミノ倒し的にメンタル不調になったとした管理職も3割弱いた【図表5】。
職場に相談しても解決しない、むしろ不利になるという誤解
J‐CASTニュースBiz編集部は、報告をまとめた金本麻里さんに話を聞いた。
――20代社員の5人に1人がメンタル面で不調を抱えているという結果が衝撃です。これほど若い世代に不調者が増えているのは、ズバリ何が理由でしょうか。
金本麻里さん 調査の結果、大きく3つの理由が考えられます。
1つ目は、職場のメンタル不調の早期発見・早期対応が、いまだに十分に実現されていないこと。ストレスチェックなど、早期発見のためのツールや相談体制は整いましたが、従業員の意識として、職場に相談するハードルはいまだに高いのが現状です。
理由としては、職場に相談した後どのような対応をされるのかを従業員がよくわかっていないという「情報共有不足」と、相談することで自身の評価・評判が低下するのではないかという「評価不安」があることです。
この2つは特に若手に多く、結果として若手のほうが職場に相談するハードルが高い傾向があります。これは、若手はメンタルヘルスの問題に偏見がなくオープンであるという先入観を裏切るものです。近年、法整備により職場の対応はかなりよくなり、今回の調査でも相談者の約8割が支援的対応を受けていました。上司への教育もなされており、メンタル不調者に公平な評価・昇進昇格機会を与えるとの上司が多数派です。
しかし、一般社員にその情報共有がされていないため、旧来の考え方(メンタル不調は職場に相談しても解決しない・相談した側が不利になるといった考え方)が根強いことが原因としてあると考えており、とてももったいない状況だと思っています。
――うーむ。必ずしも職場の対応が冷淡なわけでないのに残念ですね。2つ目はどういう理由ですか。
金本麻里さん 2つ目は、最近の若手は、スマホ利用時間(スクリーンタイム)が長く、テクノストレスにさらされていることです。スクリーンタイムの悪影響は広く知られているところで、眼精疲労や脳疲労だけでなく、自律神経を乱し、メンタル不調の一因にもなりえます。
また、一部で定着したテレワークも若手で特に孤独感をつのらせやすいことが分かっており、コミュニケーションの面で特に配慮が必要です。メンタル不調の直接の原因は仕事のプレッシャーや上司との関係などが多いのですが、水面下ではテクノストレスの影響でストレス耐性が下がっている側面もあるのではと思います。
競争に弱く、ちょっとした仕事の失敗で落ち込んでしまう
――スマホやテレワークの影響もあるとはちょっと意外です。
金本麻里さん 3つ目は、ジェネレーションギャップです。近年教育環境の変化やテクノロジーの発展が、若者の価値観に影響を与えているという論があります。今回の調査でも、若手ほど怒られたり人と対立したりといった他者からの批判や、失敗を避けがちであることが確認されました。
これは、教育分野で競争を廃し、協調や多様性を重視するようになったことや、インターネットですぐに正解が分かるため、失敗や試行錯誤の機会が減ったことなどが理由として考えられます。
このような傾向が強い若手は、上司世代が受けてきたような「叱責」による指導によって、精神的に疲弊しやすいことがわかりました。
また、仕事の失敗をメンタル不調の原因にあげる人も20代で特に多いです。学生までは同質的な環境でしたが、社会に出ると価値観のズレがある上司世代と関わるようになり、メンタルヘルスの問題を生じやすくしている可能性があります。
――男性より女性にメンタル不調者が多いのはなぜでしょうか。たとえは適切ではないかもしれませんが、厚生労働省が発表している自殺の統計(2022年のデータ)によると、自殺率(人口10万人当たりの自殺者数)は男性(24.3人)が女性(11.1人)の約2.2倍。
この割合は毎年ほぼ同じだそうです。理由は諸説ありますが、一般的に男性は人に悩みを相談するのが苦手で1人で抱え込むのに対し、女性はよく友人に相談するからといわれます。
金本麻里さん 女性でメンタルヘルス不調者が多い点については、自殺率は男性のほうが高いですが、うつや不安障害の罹患率は女性のほうが高いことが知られています。特に女性が職場でストレスを多く抱えているという結果ではないので、女性一般の傾向だと解釈しています。
通院のハードルがかなり下がり、自分で解決しようと思う
――病院の通院経験者が多いことも心配です。若手社員が通院するほど悩んでいることを会社や上司は知っているのでしょうか。なぜ、通院の前に上司や同僚に相談しないのでしょうか。大企業などでは医務室や産業医がいるところが多いですが、そういう所には相談しないのでしょうか。
金本麻里さん 通院については、近年ハードルがかなり下がったため、今回の調査でも、メンタルヘルス不調者全体の49%が医療またはカウンセリングを受診していました。20代でも43%が受診しています。入院施設などがないいわゆるメンタルクリニックが多いのではないかと思います。
それに対し、職場に相談した20代の割合は、上司・同僚・人事・専用の相談窓口などすべて合わせて44%とほぼ同数です。職場には言わずに医療受診をして自分で解決しようとしている人は、医療受診者の4割にのぼることがわかっています。
職場に言わない理由は先ほど説明したようなことが影響していると考えられ、早急に解消が必要だと思います。
<20代社員の2割が「メンタル不調」...離職予備軍に 「上司は早めの声掛けで、不安を取り除こう」パーソル総研・金本麻里さん(2)>に続きます。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)
【プロフィール】
金本 麻里(かねもと・まり)
パーソル総合研究所シンクタンク本部研究員
東京大学大学院総合文化研究科修了。総合コンサルティングファームに勤務後、人・組織に対する興味・関心から人事サービス提供会社に転職。適性検査やストレスチェックの開発・分析報告業務に従事。調査・研究活動を通じて、人・組織に関する社会課題解決の一翼を担いたいと考え、2020年1月より現職。
専門分野:職場のメンタルヘルス、アセスメント・サーベイ開発、障害者雇用。産業カウンセラー、日本感情心理学会所属
主なリポートに「職場の精神障害のある人へのナチュラルサポートの必要性 ~受け入れ成功職場の上司・同僚の特徴から~」「ミドル・シニア就業者の趣味の学習実態と学び直しへの活用法」「ハラスメント被害者の泣き寝入りと離職の実態」「仕事における幸福(Well-being)の状況~世界各国の『はたらいて、笑おう。』調査データから見る~」など。