「人生100年時代」を迎える中、できるなら介護に頼らずに自立した生活を長く送りたいと願う人は多い。元気に長生きする「健康長寿」は理想の生き方の一つといえるだろう。しかし、寿命が延びれば、健康へのリスクは高まってくる。心身が老い衰えた状態である「フレイル」を寄せ付けないためには、それなりの秘けつ、予防策がある。
「フレイル」は日本老年医学会が2014年に提唱した概念で、「虚弱」などを意味する英語「フレイルティー(frailty)」が語源だ。加齢に伴って体力が徐々に落ち、筋力や心身の活力が低下する状態。病気ではないが、日常生活に支援が必要な「要介護状態」の一歩手前を指す。
65歳以上で50%近くがフレイルか予備軍
フレイルの現況については、65歳以上で8.7%がフレイル、40.8%がプレフレイル(フレイル予備軍)という東京都健康長寿医療センター研究所のデータがある。フレイルになる要因について、東京大高齢社会総合研究機構の飯島勝矢教授は、三つのポイントとして、(1)栄養(2)運動(3)社会参加――を挙げる。栄養が不十分で、運動量が減ると「サルコペニア」という筋力減少を招き、外出がおっくうになるから、さらに運動量が落ちるという悪循環に陥る。
逆に言えば、この三つのポイントに早い時期から対処することが、フレイル予防の基本となる。効果的な対策として、東京都保健局がサイトで提唱しているライフスタイルが「食べて、動いて、人と交わる」だ。
まず、「食べる(栄養)」である。高齢者はたんぱく質が不足しがちになるため、肉や、魚、卵などを十分に摂取することが大切だ。中年期は「太りすぎ」を気にするが、高齢期になれば、「やせすぎ」や「栄養不足」を注意にしたい。東京都医師会も「『メタボ対策』から、しっかり食べて栄養状態を保つ『フレイル予防』に考え直して」と訴える。
ちょっとした工夫の積み重ねが効く
医薬品会社「ツムラ」は開設する「フレイル」の啓発サイトで、栄養をとる観点からも「歯と口の健康」の重要性を強調する。一方、ポイントの一つである「人と交わる(社会参加)」に関しては、(1)休日も外出をして体のリズムを整える(2)趣味や習い事が意欲の向上につながる(3)人とのコミュニケーションで脳の刺激になる――の効用を挙げている。
「動く(運動)」は生活全体に影響が及ぶため、特に重要なポイントといえる。体力の低下は適度な運動によって回復できるものの、高齢者に限らず、今のような寒い季節の外出は敬遠しがちだ。運動不足だからこそ、冬の運動が重要になるのだが、血圧が上がりやすい、筋肉が収縮して硬くなりやすいといった冬特有の運動リスクも心配だ。
体力の回復に必要とされる、やや強い負荷の活動(刺激)については「無理のない範囲で実践することが可能」と指摘するのが東京都保健局だ。買い物に行く際、速足でいつもの所要時間を短くしたり、歩幅を少しだけ広くするといった活動を例示し、「ちょっとした工夫の積み重ねが刺激となって、体力の回復につながります。体が慣れてきたら、それに合わせて少しずつ負荷を上げることもポイント」と呼びかけている。
(フリーライター 倉井建太)