ジャーナリストの伊藤詩織さんが監督を務めた映画「Black Box Diaries」の映像の使用許諾に関する問題をめぐり、伊藤さんの元代理人である西廣陽子弁護士は、2025年2月20日午前に東京・丸の内の日本外国特派員協会で開いた会見で、自身の電話音声を未許諾のまま映画に使用されたとし、思いを訴えた。
伊藤さんは同日午後に行う予定だった会見を「体調不良によるドクターストップ」のためとして中止したが、書面で映像使用の経緯について説明し、そのうえで謝罪した。その説明では、西廣弁護士に対して削除を提案したが西廣弁護士から反応がなかった、などと説明している。
ハグしてきた伊藤さんに元代理人弁護士「拒否する気力すらありませんでした」
「Black Box Diaries」は、伊藤さん自身が受けた性暴力について調査する姿を追ったドキュメンタリー映画。日本では劇場公開されていないが、世界各国で上映され、第97回アカデミー賞で、日本人監督として初めて長編ドキュメンタリー映画賞にノミネートされた。
午前の会見では、伊藤さんが性被害について訴えた民事訴訟で代理人を務めた西廣弁護士、同じく伊藤さんの元代理人である角田由紀子弁護士、この2弁護士の代理人弁護士を務める佃克彦弁護士が出席。肖像権の問題や、今後性被害などの証拠提供の協力を得られなくなる可能性など、映像使用許諾をめぐる問題について訴えた。
西廣弁護士は、24年7月に行われた映画のメディア向け上映会で、伊藤さんと西廣弁護士が電話で話している映像が使われているのを見て、過去のやり取りが録音・録画されていることを知ったと話した。また、以前から使用への問題を伝えていた、ホテルの防犯カメラの映像も使われていたという。
西廣弁護士は「ズタズタな気分にされた」と振り返り、次のように述べた。
「暗闇でエンドロールが流れる中、会場にこれ以上いることは耐えられなくなり、そそくさと(上映会場があった)会場を出ました。エレベーターが来るのを待っていると、伊藤さんが通りかかり、『先生、また相談させてください』と言ってハグをされました。私はなされるがまま彼女にハグをされ、エレベーターが来ると適当に言葉を交わし、その場を去りました。私には彼女のハグを拒否する気力すらありませんでした」
「映画での使われ方は事実に反する印象を与えると感じています」とも訴えた。
電話の場面では確認が漏れていたことが後で発覚
一方、伊藤さんは、20日に配布された映画の経緯について記した書面で、23年12月に、西廣弁護士の姿が映っている箇所を見せて確認を取ったが、電話の場面では西廣弁護士の姿は映っていなかったため、後から確認が漏れていたことが発覚したと説明。メディア向け試写会の後、伊藤さんは西廣弁護士に、説明と謝罪、該当部分の削除を提案したが、「西廣弁護士は、電話の声を削除するとの提案については反応がなく、『(本人の承諾なく映像を使うという)伊藤さんのしていることは人権侵害で(編注:加害者の)山口のしたレイプと同じ』と発言した」という。
そのうえで、伊藤さんは自身のコメントを記した書面で、西廣陽子弁護士に対し、「ご本人への確認が抜け落ちたまま使用し、傷つけてしまったこと、心からお詫び申し上げます」と謝罪。これ以外に未許諾が指摘されていた箇所についても謝罪し、個人が特定できないよう対処し、海外の上映でもできる限り差し替え対応をすると今後の方針を示した。
ただし、許諾が問題視されていた1つであるホテルの防犯カメラの映像については、外観や内装などは形を変えて使用しているが、加害者と伊藤さんの動きだけは「私の受けた性犯罪を、唯一、視覚的に証明してくれたもの」であるため、「一切変えることができませんでした」と訴える。「さまざまな批判があって当然」としたうえで、「公益性を重視し、この映画で使用することを決めました」主張した。