ジャーナリストの伊藤詩織さんが監督を務めた映画「Black Box Diaries」の映像の使用許諾に関する問題をめぐり、伊藤さんは2025年2月20日午後に東京・丸の内の日本外国特派員協会で行う予定だった会見を「体調不良によるドクターストップ」のためとして中止した。伊藤さんは同日に配布した書面で、問題視されていた利用確認が抜けていたことを謝罪、説明した。
「Black Box Diaries」は、伊藤さん自身が受けた性暴力について調査する姿を追ったドキュメンタリー映画。日本では劇場公開されていないが、世界各国で上映され、第97回アカデミー賞で、日本人監督として初めて長編ドキュメンタリー映画賞にノミネートされた。
「修正版に対する肯定的評価は極めて限定的」
19日午後には「オリジナル版や明日上映する日本版とは異なるバージョン」のリンクが配布されていた。ただ、20日に11時40分から予定されていた「Black Box Diaries」の「日本版」の上映と、13時30分から予定されていた記者会見は中止になった。中止のお知らせが特派員協会会員向けにメールで流れたのは、会見開始3時間前の10時30分のことだった。
一方、使用許諾の問題を指摘する伊藤さんの元代理人弁護士らは、伊藤さんらが会見を予定していた部屋で、10時30分から予定通り会見した。
この会見では、伊藤さんが性被害について訴えた民事訴訟で代理人を務めた西廣弁護士、同じく伊藤さんの元代理人である角田由紀子弁護士、この2弁護士の代理人弁護士を務める佃克彦弁護士が出席した。
佃弁護士は、「私たちも伊藤さん側の説明を聞きたかった」「今日の午後の会見を我々は楽しみにしておりました」として、会見が中止になったことに「ちょっと残念に思います」とした。
伊藤さんが修正版を制作したことに対するコメントを求められると、「問題の指摘に対して対応してきてくれているのかな」という部分に対しては肯定的に受け止めているとしたうえで、
「今後修正版を作って、それを日本で公開しました、どうでしょうという話ではないということですね」
と話した。今まで指摘されてきた問題を告げずにオリジナル版を海外で上演してきたことを挙げ、「その情報状態についてどうするつもりなんですかと、そこのところを強く問いたい」とし、「修正版に対する肯定的評価は極めて限定的になる」とした。
伊藤さんは書面で謝罪「心よりお詫びします」
伊藤さんは書面で、映画には伊藤さんの元代理人弁護士である西廣陽子弁護士の電話音声が使われていたとして、「ご本人への確認が抜け落ちたまま使用し、傷つけてしまったこと、心からお詫び申し上げます」と謝罪。さらに、「映像を使うことへの承諾が抜け落ちてしまった方々に、心よりお詫びします」とした。個人が特定できないよう対処し、海外の上映でもできる限り差し替え対応をすると今後の方針を示した。
許諾が問題視されていた1つであるホテルの防犯カメラの映像については、ホテルからの許諾が得られなかったため、外観や内装などは形を変えて使用しているが、加害者と伊藤さんの動きだけは「一切変えることができませんでした」とした。
この映像は「私の受けた性犯罪を、唯一、視覚的に証明してくれたもの」と主張。「さまざまな批判があって当然」としたうえで、「公益性を重視し、この映画で使用することを決めました」とした。