佐賀県警は、県警内に配備されたパトカー2台が車検切れ、無保険状態で約1か月の間走行していたと2025年2月14日に発表した。立件については見送りにしたとしており、これが報じられるとSNSでは「身内に甘い対応では」といった指摘が出た。
実際に「甘い対応」と言えるのだろうか。交通事故の対応にあたることも多い弁護士は、J-CASTニュースの取材に対して、一般人が取り締まられた場合「警察段階で立件すらされないというのは、なかなかないのではと思います」と佐賀県警の対応を疑問視。「事案に対する本気度が一般の方に対するものとは全然違うのが感じられます」とした。
「故意は認められなかった」→立件見送り
佐賀県警によると、該当のパトカー2台は、車検切れ、無保険の状態で合わせて約4000キロを走行した。佐賀県警の発表には含まれていないものの、各社の報道によると、担当者が車検時期のデータを「令和6年」と入力するところを「令和7年」と誤って入力していたという。
立件を見送ったことについて、交通指導課の担当者はJ-CASTニュースの取材に、「無車検・無保険」は「道路運送車両法」と「自動車損害賠償補償法」に抵触するが、これは故意ではなく過失の場合の処罰を定める「過失処罰規定」がないと説明した。今回の件については「捜査をした結果を総合的に判断して、故意は認められなかった、過失であった」と判断。立件を見送ったとした。
「無車検・無保険」だった期間や走行距離が判断に関係しているかどうかについては、一般論としては、例えば「無車検・無保険」期間が1か月の場合と5年の場合を比べると、5年の方が「容疑性は高くなる」とし、運転の頻度などもろもろ状況を総合的に判断すると説明。今回の事案に関しては、個別の捜査内容になるため「ご説明は差し控える」とした。
佐賀県警の対応にXでは、「一般人だと通用しないよね。。。」「身内には甘々やなぁ」「身内こそ厳しく罰さないでどうするんだよ?」といった声が寄せられている。
なお、無車検の運転で起訴され有罪となった場合には、刑事処分として6か月以下の懲役または30万円以下の罰金、自賠責無保険では1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される。さらに別途、免許停止などの行政処分も科されることになる。
「未必の故意」でなくても故意ありと判断されてしまうこと「ままある」
実際、今回の佐賀県警の対応は「甘い対応」と言えるのだろうか。弁護士法人リーガルプラス市川法律事務所(千葉県市川市)の小林貴行弁護士は、一般人の「無車検・無保険」が警察に取り締まられた場合、「刑事事件として立件され、書類送検までされた上で、起訴をするかどうかの決定権を有する検察官の判断で起訴が見送られることはあり得る」が、「客観的に無車検・無保険での運行が明らかであるにもかかわらず、警察段階で立件すらされないというのは、なかなかないのではと思います」とみる。
さらに小林弁護士は、無車検・無保険の罪が成立する条件であるとされる「故意」があるかどうかの検討対応についても、一般人に対するものと本件とではずいぶんと対応が違うのではないかと疑念を呈する。「無車検・無保険」の場合、「切れているかいないか微妙だな、でも切れていたとしてもかまわない」と思って運転することもいわゆる「未必の故意」として故意にあたる。一般人が「無車検・無保険」で捜査を受ける際には、実際にはこうした「未必の故意」すらなかったとしても、あいまいな記憶を警察から追及され、その回答次第で故意ありと判断されてしまうことも「ままあるのかなと感じます」とした。
これに対して、本件では一方的に「故意性は低い」と警察自身から発表されたのみであり、故意の有無が本格的に検討されたのかどうか疑わしいというのである。
「無車検・無保険」であった2台で4000キロという走行距離自体については、「無車検・無保険の類型の中では比較的よくある距離なのかもしれません」としたうえで、
「よくある話として適切に立件して送検し、その上で警察とは違う組織に属する検察官の判断として、『故意の立証が容易ではなく起訴までは難しいとか、悪質性が低いから起訴までは必要ない』となるのであれば理解できます。
しかし、身内も身内である警察自体が立件自体をせずに捜査すらもしないで(編注:佐賀県警は「捜査」したと説明しているが、小林弁護士は、実質的な「捜査」は行われていないと評価している)事件を終わらせてしまうというのは、ずいぶんと身内に甘いではないかと思ってしまいます。警察として故意が無いと判断したのだとしても、立件の上でその趣旨の意見をつけて送検することだって可能だったはずです」
とし、「事案に対する本気度が一般の方に対するものとは全然違うのではないかと疑われても仕方ないと思います」と指摘した。