推し活好き1位京都、衣料品にお金をかける1位は東京、2位は山梨、ラーメン好き1位は山形ではなく新潟......。
明治安田総合研究所が2025年2月7日に発表した「都道府県別 ライフスタイルに関するアンケート調査」では、全国各地の意外な姿が次々に表れた。
調査結果を分析した同研究所のエコノミストたちに聞いた。
漫画好き1位は岩手と新潟、アニメ好き1位は茨城
明治安田総合研究所の調査(2024年12月20日~22日)は、全国の18歳~65歳の男女4371人にアンケートを行なった。回答者は各都道府県とも、それぞれZ世代(18~28歳)31人、Y世代(29~44歳)31人、X世代(45~65歳)31人の合計93人に均等割りし、公平さを保っている。
衣食住全般を網羅しているが、そのうち衣料品と食べ物、趣味のトピックスを取りあげよう。
まず、衣料品にお金をかける人が多いところはどこか。【図表1】は、衣料品購入に年間10万円以上かける人が占める割合が高いトップ10位だ。東京都、山梨県、神奈川県、香川県、福岡県、三重県...と続き、県民所得が高い都県の間に山梨、香川、三重がはさまる構図だ。
リポートでは、山梨県と香川県のファッション意識が都会並みに高い秘密は、セレクトショップの利用率の高さにあると分析する。セレクトショップとは、独自の販売コンセプトを持ち複数のブランドの商品を仕入れ、販売するファッション店のこと。
続いて、ラーメン好きの人が多いところ。【図表2】は、ラーメン好きが占める割合が高いトップ3。新潟県、福島県、続いて秋田県と茨城県が同率で並ぶ。さらによく食べる味を聞くと、?油ラーメンは新潟県、とんこつラーメンは福岡県、味噌ラーメンは秋田県、塩ラーメンは福井県がそれぞれ1位に【図表3】。
また、餃子が好きな県のトップ3は、静岡県、新潟県に続き滋賀県と広島県が同率で並んだ【図表4】。ラーメンで1位、餃子で2位になった新潟。今年(2025年)3月には新潟市で全国から餃子が集まる「全日本ぎょうざ祭り」が開かれる。ラーメンだけでなく餃子熱にも火が付けば、「餃子王国」として名高い栃木県や宮崎県を脅かす存在になるかもと分析している。
さて、趣味の分野で漫画好きが多いところのトップ10は、岩手県と新潟県が同率で1位となり、秋田県、群馬県、島根県、佐賀県の4県が同率で3位に【図表5】。また、アニメを観ることが好きなところは、茨城県がトップ、続いて京都府と徳島県が同率で2位に並んだ【図表6】。
興味深いのは、推し活好きの順位だ。京都府がダントツの1位となった【図表7】。京都府は漫画好き、アニメ好き、推し活好きのいずれにもランクイン。「古都」のイメージにそぐわないが、リポートでは、日本初の総合漫画博物館「京都国際マンガミュージアム」や、クオリティーの高さが評判の「京都アニメーション」が存在する文化的な背景が押し活にも影響していると分析する。
山梨と香川のファッション意識、千葉・大阪より高い理由
J‐CASTニュースBiz編集部は、調査のそれぞれの分野をまとめた明治安田総合研究所経済調査部エコノミストの吉川裕也さん(衣料担当)、前田和孝さん(食担当)、藤田敬史さん(趣味担当)に話を聞いた。
――衣料品にお金をかける人が多いトップ5位に山梨県と香川県が入っています。大都会がある千葉県や兵庫県、大阪府を押しのけた理由として、「セレクトショップ利用率が高く、ファッション意識が都会並みに高い」とありますが、大手セレクトショップの展開などが関係しているのでしょうか。
吉川裕也さん 山梨県、香川県ともに「セレクトショップ利用率」が高いのはY世代であり、香川県が衣料費で4位に食い込んだ主因となります。山梨県はY世代の高い「セレクトショップ利用率」に加え、Z世代とY世代の「フリマ・リサイクルショップでの購入率」の高さが衣料費2位への原動力になりました。
香川県の高松市には「ビームス」「ユナイテッドアローズ」「トゥモローランド」が出店しており、地方のファッション拠点の一つとみなすことができます。一方、山梨には「シップス」や「ビームス」「ユナイテッドアローズ」といったセレクトショップの店舗はありませんので、ネットでの購入が主体とみられます。
――山梨県が2位の理由として「フリマ・リサイクルショップでの購入が全国1位」という指摘が興味深いです。これは何か山梨県の歴史や県民性と関係があるのでしょうか。
吉川裕也さん 山梨県の東部、郡内地域(富士吉田市や西桂町など)は1000年以上も前から続く日本屈指の織物の産地です。ふじやま織りや郡内織物と呼ばれる上質な織物は、高級服地やインテリア生地に利用されています。
また、郡内織物は、国産ネクタイ生地の4割で使用されています。織物の産地であることが高いファッション意識や衣類を大事にする文化につながり、フリマやリサイクルショップなどの中古市場が発達した可能性があります。
もともと山形県の年長者は、ラーメンが好きではなかった?
――ラーメン好きの上位が、新潟県、福島県、秋田県・茨城県という順番がちょっと不思議です。今年(2025年)2月に発表された総務省の家計調査(全国の県庁所在地と政令指定都市が対象)では、ラーメンの支出額では山形市が3年連続のダントツ日本一で2位の新潟市を圧倒しています。
ちなみに3位は仙台市、4位は富山市、5位はさいたま市です。今回の調査とギャップがある理由は何でしょうか。
前田和孝さん 前提として当社のアンケートでは各都道府県が単位ですが、総務省家計調査は主に県庁所在地をベースに順位を出しています。そのあたりで違いが出ている可能性があります。
そのうえでの考察となりますが、家計調査におけるラーメンの支出額で日本一の山形は、当社アンケートでは好きと回答した割合が68.8%で13位となっています。世代別に見ますとZ世代とY世代では上位の県とも引けを取りませんでしたが、年長者であるX世代の回答が低かったのが主因です。
――つまり、若手や中堅はラーメンが大好きでも、年長世代はもともとそれほど好きではなかったということですか。同じく餃子も、今回調査では静岡県、新潟県、滋賀・広島県の順ですが、家計調査では、1位浜松市、2位宮崎市、3位宇都宮市、4位さいたま市ですが、このギャップも同じ理由ですか。
前田和孝さん 餃子については、栃木・宮崎両県は若手・中堅のZ、Y世代で伸び悩んだことが上位に食い込めなかった要因となっています。とりわけ宮崎県はZ世代が38.7%と低く、むしろ寿司や唐揚げが好きだという回答がより多く見られました。
頻繁に食べはするけれども、その他の食べ物のほうが好きという人が若い世代には多い可能性もありそうです。宮崎県と栃木県を差し置いて2位となった新潟県は家計調査の支出額はそれほど多くありませんが、今回調査で首位になったラーメンとセットで「ラーメン餃子」を楽しむ人が多いのかもしれません。
地方でも「推し」のYouTubeの生配信やインスタライブを楽しめる時代
――京都府が押し活・漫画・アニメのすべてにランクインしています。京アニ(京都アニメーション)や京都国際漫画ミュージアムなどの存在をあげていますが、東京都にも三鷹の森ジブリ美術館、東京アニメセンター、東映アニメーションミュージアム、長谷川町子記念館など多くの「漫画・アニメの聖地」といわれるところがあります。
なぜ、古都のイメージが強い京都がランクインをしながら、東京都が「推し活」以外に漫画・アニメでランクインしないのでしょうか。
藤田敬史さん 今回アンケート調査では「推し活が趣味」という回答の全国平均は16.4%でした。これを世代別にみると、Z世代29.1%、Y世代14.2%、X世代6.0%とZ世代の割合が突出しています。Z世代を都道府県別にみると、過半の都道府県で3人に1人以上が推し活を趣味と回答しており、3大都市圏のほか、北海道から九州まで広範囲に広がる結果となりました。
Z世代の推し活好きが多い都府県が今回のアンケート調査結果に名を連ねましたが、京都府はZ世代のほか中堅層のY世代でも推し活好きが多かったこともあり1位となりました。
――それにしても、押し活が趣味の人が、福島県、和歌山県、岩手県、愛媛県、鳥取県といった地方に多く、東京都や神奈川県を上回ることが少し不思議です。
たとえば、東京に住む私の知人で、岩田剛典さんとディーン・フジオカさんを「推し活」している女性が、「東京にいればすぐライブで会えるけど、地方にいるとなかなか会えないから、それだけ思いが強いのでしょうか」と言っていましたが、いかがでしょうか。
藤田敬史さん 推し活はZ世代に浸透していますが、環境の変化も背景にあると考えられます。従来は地域によってはイベントに参加しづらいなど距離的に遠く感じられたかもしれませんが、現在はYouTubeの生配信やインスタライブなどオンラインイベントに参加できるようになりました。
そのほかにもSNSなどで推し活仲間とつながったり、映画やドラマ視聴のサブスクを利用したり、グッズをネット経由で入手できたり、遠征する際はSNS仲間に会うことも楽しむ機会にするなどサービスの多様化に伴い、地域間の垣根は従来に比べ低くなっています。
「推し疲れ」とならないよう推しを楽しみ、ハッピーに
――漫画・アニメ好きの人もむしろ東北や九州、四国の人に多いですね。
藤田敬史さん 漫画を好きはY世代に多く、アニメ好きはZ世代に多く、それらの世代を反映した調査結果となりましたが、いずれもオンラインで購入できたり、TVerやサブスクなどで観られたりと、地域を問わずどこに住んでいても楽しめる時代になってきています。
アイドル・俳優・アニメや漫画キャラを応援するなどの推し活はウェルビーイングを高めるといった各種調査結果も報告されています。日常に潤いや彩りをもたらしてくれる推し活も、お金の使いすぎや情報が多すぎてついていけない状態に陥るなどの行き過ぎは心身をすり減らます。
情報があふれる現代、推し疲れとならないよう、自分のキャパシティを考えながら楽しむことで推し活が今後、健全に発展することを期待します。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)