特定の地域で急に売れているものが、時折、登場する。
キャッシュレス決済リング「EVERING(エブリング)」が、2024年から関西エリアで販促に力を入れるようになった。地域限定のテレビCMや都市部でのポップアップイベントなどを実施し、着実に売り上げを伸ばしているという。
しかし、なぜ関西なのか? その背景には、関西の鉄道事業者がいっせいにタッチ決済乗車を導入したことがある。
「クレカタッチ決済乗車対応」のインパクト
2024年10月29日、大阪メトロ、阪急電鉄、阪神電気鉄道、近畿日本鉄道の関西私鉄4社はクレジットカードのタッチ決済を活用した乗車サービスの提供を開始した。
これにより、4社合わせて548の駅がタッチ決済乗車に対応するようになった。それまで日本の鉄道では、交通系ICカードが「キャッシュレス決済乗車の王者」に君臨していたことを考えると、これは絶大なインパクトがある出来事だ。
なぜなら、クレカタッチ決済乗車は、国際的には標準的な規格でもある。日本を訪れる外国人旅行者は、誰しもタッチ対応のクレカを所持している。トラベラーズチェックがなくなった今、旅中にお金を払う時、安全かつ迅速に使う最適の手段はクレカもしくはデビットカードである。
ということは、日本の公共交通機関がタッチ決済に対応していれば、外国人旅行者の「移動の利便性」が大きく向上するのだ。
もちろん、それは日本人にとっても同様のはず。普段の買い物に使っているクレカで、そのまま駅の改札を通過できるのだ。
見た目はシンプルな指輪、ファッションアイテムにも
EVERINGは、それ自体はVisaブランド付与のプリペイドカードである(「カード」と表現するとややこしくなってしまうが)。専用アプリで別のクレカと紐付け、そこから残高をチャージして使う仕組みだ。
見た目はジルコニアセラミックのシンプルな指輪で、決済に利用せずともファッションアイテムとして身に着ける考え方もあるだろう。もちろん、レジや自動改札の認識パッドにこれをかざせば、迅速な非接触型決済が可能だ。
タッチ決済に特化しているため、高額の決済には不向きという欠点もある。Visaのタッチ決済は、原則として一度に1万5000円までの取引しかできない。それ以上は接触型決済――すなわち、カードの差し込みと暗証番号入力が必要になる。
タッチ決済とは、そもそも小銭が必要になる少額決済をより効率的に行うコンセプトのもとに設計されているため、そのような仕組みになっているのだ。
それでも、普段の買い物で1回の請求額が1万5000円以上になることは頻繁にあるものではない。
物価高の現在とはいえ、日常的な買い物はせいぜい数千円で済むはずだ。新幹線に乗って遠方に行くというわけではない限り、あらゆる決済はEVERINGだけで完結できるだろう。
その上で、自分の身近にある公共交通機関がタッチ決済に対応するようになったとしたら、今までより「クレカの活用」について考える機会が訪れるのではないか。
大阪を中心とした関西地方の「EVERING」人気は、まさにその延長線上にあるといってもいいだろう。(澤田真一)