食後の胸焼けや、胃もたれ、げっぷ......。その不快な症状は胃酸が食道に上がってくる「逆流性食道炎」かもしれない。かつて欧米に多かった病が、日本でも1990 年代後半から高齢化や食生活の欧米化などで患者数が急増し、今では成人の有病率は10~20%という。胃酸は金属をも溶かす強い酸性を持つ。放っておくと、食道がんのリスクが高まるというから、早めに診断を受け、適切な治療を始めたい。
「逆流性食道炎」は医学的には「胃食道逆流症」の一つで、食道粘膜がただれ、炎症が起きた状態をいう。胃酸は塩酸と同じくらいの強酸性である。胃は粘膜による防御機能があるが、食道にはそれがないから、胃酸が流れ込むと、ダメージを受けやすい。
ピロリ菌感染者が減ったのも増加原因?
胃酸の逆流が起きる要因の一つが、食道と胃のつなぎ目で逆流を防いでいる下部食道括約筋が加齢によって緩み、締まりが悪くなるためだ。もう一つが胃酸の分泌量の増大である。日本で逆流性食道炎が急増した背景には、ピロリ菌感染者の減少があるとの見方が強い。ピロリ菌は胃の粘膜を傷つけるため、胃酸の分泌量が低下する。しかし、除菌治療の普及によってピロリ菌感染者が激減する一方、肉を多食する食生活の欧米化などもあって、胃酸の分泌量が増えたと考えられている。
早期に診断を受けるためには、体からのシグナルをいち早く察知しなければならないが、逆流性食道炎の症状は多岐に広がるから、難しい。「胸焼けや胃のムカムカだけではありません」と注意を呼び掛けるのが、武田薬品工業や大塚製薬などが運営する「逆流性食道炎」に関する啓発サイトだ。見落とされがちな意外な症状として、(1)耳のあたりが痛む(2)声がかすれる(3)食後におなかがはる(4)のどのイガイガ感やせきが続く――を列挙している。