これまでエスカレーターは東京など首都圏では左側、関西では右側に立ち、片側は歩く人のために空けるという習慣が定着していた。
しかし、乗降口付近に大行列ができしまったり、歩く人が立ち止まる人に接触したり、トラブルが付き物だ。そんなエスカレーターの習慣が変わりつつある。
片側空けの習慣は事故につながる
2024年6月27日付の『読売新聞オンライン』の記事では、エスカレーターの片側空けが呼びかけられたのは1943年の英ロンドン地下鉄が初めて。日本では、1967年頃に大阪・阪急梅田駅でアナウンスされ、89年には東京・新橋駅や東京駅の地下ホームなどで自然発生したと伝えている。
こうして社会に浸透した片側空けの習慣だが、事故につながる可能性もあり危険だ。昇降機関連の業界団体である日本エレベーター協会が、2020年10月に発行した機関誌『ELEVATOR JOURNAL(エレベーター ジャーナル)』に掲載した「エスカレーターにおける利用者災害の調査報告」によると、エスカレーターにおける事故の原因で最も多いのは、階段上を歩いてつまずき、転倒するといった「乗り方不良」だという。
事故だけでなく、ステップに衝撃を加えて安全装置が作動してエスカレーターが緊急停止する。片方の手が不自由な人だと手すりにつかまれないといったリスクもある。
そのため24年7月には全国の鉄道事業者などが共同で「エスカレーター『歩かず立ち止まろう』キャンペーン」を実施するといった取り組みも行われている。
乗り方の常識が変わった
また、埼玉県が21年、名古屋市が23年にエスカレーターでは歩かずに立ち止まって乗ることを義務づける条例を施行している。
いずれも罰則はない努力義務だが、効果も出ている。名古屋市が24年6~7月に交通機関6か所、商業施設3か所、公共施設1か所で行った実地調査では、93.6%の人が立ち止まってエスカレーターを利用しているとの結果が出ている。
名古屋市では「なごやか立ち止まり隊」と称して、看板を背負ってエスカレーターの右側に立ち止まって乗るスタッフを公共交通機関に送り込んだり、床面に歩かないよう注意喚起するマーキングを施したり、ポスターを設置するといった積極的な啓発活動を実施。そのおかげもあって結果が出たのだろう。
名古屋の成功に続こうとする自治体もあるようで、24年12月29日付の『中日新聞Web』では、福岡市交通局がエスカレーター事情の視察で名古屋に来ていると伝えている。
名古屋で定着した「両側立ち」のスタイルが全国の常識となる日もそう遠くないかもしれない。
(リサーチ班 大山雄也)