地方議員のなり手不足解消などをうたい、会社員が入る厚生年金に議員も加入できる新制度の法整備を求める意見書が、全国の地方議会で次々に採択されている。
総務省によると、地方議会の7割に当たる約1200件の意見書がこれまでに総務大臣あてに届いている。議員特権だと批判が出て廃止された旧年金制度の復活とは違うというが、個人事業主が入る国民年金で十分ではないかとの意見が議会内からも出て、議論になっている。
目黒区議会などでは、意見書に対し賛否が割れる
「地方議員が厚生年金に加入できるよう法整備を図ること」。東京都目黒区議会では2024年12月5日、こんな一言が入った意見書が賛成多数で採決された。
そもそもの名前は、「地方議会への多様な人材の参画推進を求める意見書」だったが、人材育成のために厚生年金加入の法整備が必要だとさりげなく書かれたわけだ。
しかし、一見穏当な名前にも見えるこの意見書については、反対する議員が13人に上った。賛成は20人で、その賛否について意見が割れた形だ。
実は、議員の厚生年金加入を巡っては、同様な議論が他の地方議会でも行われている。
富山市議会では24年3月22日、議員の厚生年金加入を求める意見書の採択を巡って、同じ保守系の会派同士で議論が真っ二つに割れた。
意見書では、議員のなり手も会社員からの転身が期待される中で、厚生年金加入で老後の心配がなくなるとされ、最大会派の「富山市議会自民党」が賛成討論をした。ところが、第2会派の「自民党」は、自分たちだけ国民年金から抜けたいというのは実質的な議員報酬の増額ではないかなどと反対討論し、採決の結果、ようやく意見書が可決されている。
地方議員の厚生年金が実現すれば、議員と自治体で保険料が折半される。日本年金機構の保険料額表で計算すると、目黒区の場合は、議員1人当たり月額5万円強の税金が使われ、全議員で年間2200万円強の負担になる。また、報道によると、富山市議会でも、年間3300万円強の公費負担が生じ、税金の使い道からも議論になっている。
「自分たちだけ要望するというのは、ちょっと違うんじゃないか」
過去に問題となった議員年金については、国会議員互助年金が06年に廃止され、続いて、地方議員年金も11年に廃止されている。
地方議員については、総務省の政策評価広報課によると、厚生年金加入を求める意見書が廃止後に地方議会から上がり、16年には、900件近くに達した。
報道によると、その後、自民党などから議員年金の復活を求める声が高まり、18年2月23日の衆院予算委員会では、もし全地方議員が厚生年金に加入すれば、年間約200億円の公費負担が生じるとの試算が総務省の担当者から示された。これに対し、党内からも反発が出て、法案の国会提出が見送られた。20年にも、自民党内で議員年金復活の動きがあったものの、立ち消えとなっている。
総務省によると、地方議会からの意見書は出続けており、23年には、20件強に達した。24年は、それを上回る数になっているといい、政策評価広報課の調べでは、これまで総務大臣などに出された意見書は約1200件となり、地方議会の7割に当たる数だ。
目黒区議会の山本ひろこ議員(48)は、意見書への反対討論を行ったことで問題意識を持ち、24年12月18日から、各議会に意見書採択を求めている全国市議会議長会などに向けた「議員厚生年金の創設に反対する署名請願」を署名サイト「change.org」で始めた。25年2月14日までに、当初の目標を上回る4万2000件以上の署名が集まっている。
この活動について、山本議員は2月13日、J-CASTニュースの取材にこう説明した。
「国民年金の制度があるのに、自分たちだけ要望するというのは、ちょっと違うんじゃないかと思っています。そんな議員たちでいいのだろうかと思い、議員の姿勢を問おうと署名活動を始めました」
要件が煮詰まらず、厚労省「加入を検討していない」
とはいえ、地方議会の7割が意見書を採択したということは、それだけ要望が強いとも言える。今後、国は、意見書を受けて、議員の厚生年金加入に向けた検討を進めるのだろうか。
総務省の福利課は2月14日、取材に対し、議員の厚生年金については、まだ議論を整理できていないと現状を説明した。
「厚生年金は、企業に雇われていることが要件になっています。それが議員に合うのかということです。議員は、自治体に雇用されている職員ではありません。選挙で選ばれており、雇われているのとは性格が違います。また、議員は、議会への出席はありますが、労働時間が決まっているわけではありません。雇われている場合の労働時間の要件に当てはまるのか、という問題もあります」
一方、厚生年金を所管する厚労省の保険課は同日、取材に対し、議員の加入について、「雇われている身分ではありませんので、現時点では対象にはなっておらず、加入を検討している事実はありません」と答えた。
やはり、もし地方議員が厚生年金に加入するとすれば、新たな法整備が必要になるようだ。
(J-CASTニュース編集部 野口博之)